決意+覚悟

「どう思うよ赤丸」
「ウウ…」

さっきのコトメの発言から無理矢理腕を引かれて演習場に来た俺と赤丸は、目の前でしっかり準備体操を始めたコトメを見ながら顔を歪めて溜息をついた。つーか何、コトメはマジで俺と赤丸と渡り合えると思ってんのか…?悪いけど馬鹿にするのもしょうがないと思うぜ。伸ばしかけの髭を触りながらちらっと赤丸を見ると困惑しながらの毛繕い。お前も余裕だと思ってるだろ?俺も俺も。

「あんまし私のこと甘くみない方がいいんだからね!」
「つーか俺相手するなんていってねーよ!!」
「私と勝負するのが怖いのか!!」
「ボコボコにしちまいそうで怖えわ!」
「自分の実力過信しすぎ!!」
「コトメてめえ〜…!!」

こいつは人を怒らせる天才かよと、髭を触っていた手に力を込めた。つーか大体、俺は上忍試験を受ける身、コトメはまだまだ新米の中忍、どう考えても勝つのは俺だろうが!!いっつもいっつも、こいつはそうだ。で、どうせ負けて泣くんだろ…まあ俺が本気出さなかったらそれはそれで泣くだろ…

「赤丸どうするよ」
「クウ…」

あ〜〜赤丸も「嫌だよ」って言ってるわ…そうだよな後々めんどくせーもんな…。大きく息を吐いて、一言気の抜けた声が漏れる。しょうがねえ…挑発に乗ってやるか。つーかここで引き下がれるか!と、屈伸を終えたコトメに顔を向けた。

「負けても泣くなよなー。ま、無理だろうけど」
「キバ!ちゃんと今の私を見てろよー!!」
「…っ」

そう珍しく強く発言したコトメに、俺は目を丸くさせた。こいつ、さっきまでこんなに強い眼してなかったのに。今までは知らなかったコトメがそこにはいる。深い紺色の瞳に一瞬吸い込まれそうになり、その奥に蠢く影が見えた気がした。








分かってる。キバの実力なんて分かってる。私よりずっと上だってことくらい分かってる。でもだからこそ私の覚悟を分かって欲しかった。…本当は、シカマルに1番に分かって欲しかった。

「…まさか1発入るなんて思ってなかったぜ」

通牙の連続をなんとか避けきった後(多分ロンさんとの修行のおかげ)、地面に両手をついてがむしゃらに足を空中を投げ出した先には赤丸がいて。奇跡と呼ぶにふさわしく、私の右足が赤丸にヒットした。もちろん赤丸も痛いだろうが私も痛かった。だが、蹴り上げた赤丸はそのままキバへと命中し、キバの口からは切ったのだろう、血が流れていた。そんなキバへと笑顔を向けて運も実力のうちだと笑ってみせたが、どうやら赤丸にヒットした私の右足は、割とちゃんと立てる状況ではないらしい。

「運も実力のうちかもしんねーが運を味方につけるのも大事だな、その足」
「う、うるさいな!痛くないし!」
「強がりすぎだっつーの!」
「うるさーい!!」

心の中で自分の右足に喝を入れながら印を結ぶ。忍術得意じゃないけど、今日までだって修行してきた。できる、できる、できる。できないと、いけない。キバが向こうで「できるわけねーしさせるか!このまま突っ込むぞ赤丸ゥ!」なんて叫び声が聞こえてくる。むかつく。むかつく!私は、ほんとのほんとに本気なんだから…!!!!

チャクラを絞り出そうと印を結ぶ手に力を込める。…なんだかいつもよりチャクラを上手く練り出せない。なんで、もう疲れてるの!?まだチャクラ一回も使ってないのに!!

「コトメ!!行くぜ!!!牙通……!?」
「ワン!!!ワン!!!!」

必死だった。とにかくありとあらゆるチャクラをかき集める気で、目を瞑って死ぬ気でチャクラを練った。そのうち、何か体の奥の奥の開けたことのない扉を開けたような気がしてふと目を開けると、瞳を大きくして私を見るキバと赤丸、そして自分自身に何か青い光が纏わりついているのが分かって思わず息を止めた。

「な………だ、大丈夫かよコトメ!!」
「な……にこれ…」

湧き水みたいにどんどん溢れていくチャクラは、練るのをやめているのにも関わらず、水のように透明で大きく鋭い針へと、勝手な変貌を遂げていた。そしてその針の先は、キバと赤丸。

「ちょっ……と、駄目!!!」

勝手に作り出されていく水の針は、容赦なくキバと赤丸を目がけて飛んでいった。

2016.05.06

prev || list || next