空と茜

「ほんとよく分かんない人だなあ、深月セナさんって……あ、ていうかシカマルさっきなんか言いかけてたよね?何?」
「いや……いい。そんなことよりそれ貸せ」
「え?」
「俺があげたやつ」

シカマルの視線は先程セナさんから渡された髪紐へと注がれていて、思わず私はぴゃっ!と奇声を上げた。こここれは決して私が無くしたとかそんなんじゃないよ!!だがしかしこの髪紐が無くなっていた理由が理由すぎて、どう伝えたらいいか分からずにわたわたしていると、呆れたように溜息を零すシカマルが私の手を取っていた。…私の手を取っているではないか!!?ぎゃあ!!

「わわわ!!?シカマルさん!!?」
「なんだよ…一々うるせーな」
「何をされてるんですか!!」
「髪紐貸せっつったろ。結んでやるって言ってんだよ、めんどくせーけどな」
「え…そんな器用なことできるの?」
「俺も自分で髪の毛纏めてっからな。いいから後ろ向け」

後ろ向けって言ってる癖に無理矢理後ろを向かされた私は、頭にシカマルの手が乗せられたことでびしっと体を硬直させた。というかあれだ…一応フられた女とフった男が何事もなかったかのようにこうやっているのは少し無理があるんじゃないのか…?いくら幼馴染とは言え、だよ。あれ、というか私フられたんだよね?

よくよく考えればなんとなーく告白の返事は曖昧だった気がするけど…まあでも、ハヤさんをシカマルが好きなのは本当のことだしね。私の気持ちには答えられないって言ってたわけだし。後は私が勝手に頑張ればいいだけだもん。するすると髪の毛が1つに纏めあげられていく感覚に何故か心地良さを感じる。数秒後、髪紐をキュッと締めたシカマルは何を思ったのか私の顔を覗き込んだ。

‥って!ちょっと近い!私をどうしたいんだ!距離を保て距離を!と言いかけたが、覗き込んだシカマルの顔が思いのほか緩んでいて思わず口を閉じてしまう。くそ、分かってはいたがやっぱりかっこいいな…その色気を女の私にください。

「…改めて見るとやっぱ似合ってんな」
「あっ……改まりすぎでしょ!?一緒にロンさんの修行付き合ってくれた時もしてたじゃん!!コレ!!」
「だから改めてって言ってんだけど…あの時は感想言う余裕なんてなかったからな」
「んなっ……ど、どうも…?」
「…」

そう言いながらまじまじと見てくるものだから、心臓の音がシカマルに聞こえそうな程大きな音を立てている。分かっててやってるなら今すぐにでもビンタしてやりたいが、シカマルの顔が素直に感想を述べているようにしか見えなくて、私は思わずお礼を口にしてしまっていた。








「あ、いたいた、シカマル!」
「んあ…?…って、チョウジじゃねえか」
「久しぶりだね。元気だった?」

コトメと俺の事件から数日が経ったある日、いつものように数時間程度の休憩を挟みコトメの護衛を暗部と交代していた俺は、休憩を終え護衛の続行に向かう為木の葉病院へと向かっていた。その途中背中越しに聞こえてきた懐かしい声に振り向くと、以前よりも少し体型が細くなっていた親友・秋道チョウジがにこやかに手を振っている。痩せてはいたが、久しぶりのその姿に俺は自然と顔を緩ませた。

「おー。つかチョウジ、お前少し痩せたんじゃね?」
「そうかな?確かに任務中ロクに食べられなかったからねえ…それよりさ、丁度報告書出し終わったし、今からシカマルを焼肉Qに誘おうと思ってたんだ、一緒に行かない?」
「行ってやりてーけどな…任務あるし…」
「そっか。相変わらず忙しそうだね、シカマルは」
「そりゃお互い様だろ。また食べに行こーぜ」
「うん。…って、あれ…コトメじゃない?」
「あ?」
「あれ、シカマル…に、チョウジ!!久しぶりだね!帰ってきてたんだ!」

それはねーよと言いかけた俺の口が停止した。おいちょっと待て。午前中まだこいつ入院してた筈だろ。なんでこんな所ほっつき歩いてんだ…あんぐりと口を開けて呆れていると、コトメは俺が何を言いたいのか分かっていないようで首を傾げている。いやなんなんだよ、俺お前の護衛に戻る所だったんだけど…ちらりと近くを見ると、俺の代わりに護衛をしていた暗部が目配せしていることに気付いて顔を顰めた。

「ついさっき帰ってきたんだよね。ああ、もう駄目だ、ボクもうお腹ぺこぺこだよ…コトメは今日任務?」
「え?あ、ううん、今日はお休みなの!私もお腹ぺっこぺこだなー。本当は毎週甘栗甘会とかしてたんだけどね、いの忙しいから行けてなくて…あ!チョウジ一緒に甘栗甘会しない!?」
「それはもちろんそそられるんだけどボクは焼肉を食べたいんだ!どうしても!!」
「あー、焼肉かあ…それも捨てがたい…じゃー行く?」
「おい、お前一応病み上がり…」
「よおーし!!じゃあ2人で焼肉会だね!!」

俺がやんわり止めようとするのも無視して、2人仲良く焼肉Qへ走りだすのを見ながら溜息を吐くと、目の前に現れた一人の暗部が「彼女、先程退院を許可されていました。後はお願いします」と言いながらぽん、と肩を叩いて消えた。

2014.10.10

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