消えた記憶

「………無い」

シカマルは研修中だったいのに情報部へと連れてこられ、あれよあれよと言う間に色んな術をかけられた。そして試せる術は全て使ったのに‥と言わんばかりに困った様な視線を隣で佇む綱手へと向けたいのは、ぽつりと一言だけ言い放った。

「…無い?何もか?」
「こういうのを"真っ白"っていうんですかねー…見当たらないんですよ。記憶も、映像すらも…」
「何か形跡は残ってないのか?施された術、消された跡…なんでもいい」
「確かに消されたという事実はありますけど、その事実は"不自然"ということだけです…こんなにまで不自然で綺麗な記憶障害なんて見たことない」
「…」
「…大体シカマルが簡単に術にかかること自体がおかしいんですよ。術をかけた相手が相当な術者としか考えられない…一体誰がこんな……例え本人が忘れてたって、見た映像は頭の何処かに残ってるはずなんです、術にかけられても封印の式は何かしら残るものだし…」
「そうか…」
「……さっきの…」
「なんだ?」

いのの話しを静かに聞いていたシカマルは、先程から白魚一族が持つ瞳術のことを考えていたらしく、座っていた椅子の背もたれから前屈むと鋭い視線を綱手へと投げかけた。

「さっきのハヤさんの話しなんスけど…」
「ハヤか…」
「いや、これは俺の考えた可能性なんスけど……悪ィいの、少し5代目と2人にしてくれねェか」
「なによ、私がいちゃマズイの?」
「頼む」
「…分かった。外にいるから終わったら呼んでよ」

シカマルの言葉に疑問を持ちつつも、少しだけ不貞腐れたままその場を離れたいのを見送って、近くの椅子に腰を降ろす綱手へ向き直ったシカマルは小さく息を吐き出した。








「はい、とりあえず目の異常な〜し!!ん〜よかったよかったあ〜!…っていうかあ、キバ任務いいのお?」
「あ?いいんだよ、どーせ建築の手伝いだし」
「どんな任務でも全うしないと立派な忍なんて言えないんだからね!」
「うるせーよ!大体俺はもうすぐ上忍になるってのになんでシノだけS級任務についてやがんだっつー話しなんだよ!」
「試験まだでしょ、何言ってんの?バカ?」
「言ってくれんじゃねーのコトメ…」
「キバが上忍試験受けるなんてこの世も末期ねえ〜」
「マジでセナさんだけには言われたくねぇ!」

にこやかな笑顔を浮かべつつさらりと酷い言葉を零すセナさんに苦笑いしていると、病室のドアがガラリと開いた。そこにいたのは今朝恋談議を(私が一方的に)していたヒナタで、私を見るなりほっとした表情を浮かべて笑顔を見せた。

「コトメちゃん…!よかった、元気そうで…!」
「元気も元気、心配して損するレベルだと思わねー?で、そっちはいいのかよヒナタ」
「あ、さっきいのちゃんと情報部に行っちゃったから…私達任務もあるし…」
「ヒナタ、シカマルは…!?」
「あ…へ、平気だよ…!心配することないと思う…!ほらキバ君、行こうよ…!」
「なあヒナタ、俺思うんだがよ…俺達必要あると思うか?ッぐほ!!!」
「サボりは駄目よお、それにヒナタちゃんが折角迎えに来てくれたんだからあ、男として恥ずべき行動はするべきじゃないでしょお?」
「だから…それセナさんにはマジで言われたくねぇっつってんだろー…!!」
「キ、キバ君ー!!!」
「クゥーン…」

綺麗にキバのみぞおちへ入った拳でむんずっと首根っこを掴んだセナさんは、そのまま病室の外へ投げ出した。それを「ま、また来るねコトメちゃん…!」と口にしながら追いかけていくヒナタと赤丸。うわあ、すごい痛そう…ドンマイキバ…

「…で、何話してたんだっけえ?」

ふと先程の少しだけ慌てたようなヒナタの姿に首を傾げていると、セナさんがくるりと振り向き、にっこりと笑顔を浮かべながら私のベッドへと腰掛けた。

2014.09.04

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