微かな残り香

「なんスか、そのユムガンって…」
「……癒無眼というのは白魚一族の血継限界だ」
「血継限界?白魚一族…って、それじゃ…」
「…何かで記憶を消された、か」
「ま、待ってください!絶対ハヤちゃんじゃありません!!ハヤちゃんがこんなことするはずない…!」
「落ち着けヒナタ。私だってまさかアイツがやったことだなんて思えない…だが白魚一族はハヤ以外に居ない……はずだ」
「「?」」
「ああ、くそ…なんでこう幾つも幾つも問題が積み重なるんだ!」

綱手は眉間に皺を寄せてがしがし頭を掻き回すと、困惑するように顔を見合わせるシカマルとヒナタに背を向けた。‥ハヤがやったとは考えにくい。あいつはそんな奴じゃない、文句こそ言うが昔から木の葉の里への忠誠心は強い…それについさっきコトメの兄が生きていたという情報が入ってきたばかりだ。もしかしたら、白魚一族の生き残りもいるのかもしれない…だが何故生きている?封印の器ばかり狙う…?

コウの里の忍は、修羅の国との戦争で全滅したと3代目火影が残した資料には確かに記されてあった。しかしそれが覆されるような事件が事実起こっている。日暮硯コトメの実兄が生きており実の妹を手にかけたこともそうだが、白魚一族の者であるという確証を持った人物が、シカマルと接触しシカマルの記憶の一部始終を消した。一体何が起きようとしているのか、封印の器達に何が起ころうとしているのか皆目見当もつかない。やっと第四次忍界大戦も終わり、憎しみに取り憑かれた世を変えて行こうと里同士が手を取り合って間もないというのに……悲しい惨劇だけは起きてほしくない…。綱手はやっとそれだけ考えると、シカマル達に振り向いた。

「…今いのを呼んできてもらってる。お前の中の記憶をもう一度詳しく調べるからな」
「そりゃもちろん…つーか、だからそのユムガンって一体なんなんスか?白魚一族の血継限界ならハヤさんも使えるってことっスよね…?」
「…ハヤちゃんの一族の血継限界は瞳術使いにとってはとても欲しい能力で、それと同時にとても厄介な物なの…」
「瞳術?」
「癒無眼とは"癒し"に虚無の"無"と書く極めて珍しい瞳術の1つなんだ。日向で言えば白眼で使い過ぎた眼を癒すことが可能。…そして、逆に視界を消し去ることもできる」
「……別に記憶を消したりとかできるわけじゃない、目が見えなくなるだけか…」
「ああ。だが癒無眼という血継限界について分かっていることは限りなく無いに等しい。その能力を持つハヤにだって分かっていることは一部だろうからな。……まあアイツは癒無眼という能力自体に嫌悪感があるが…」
「なんスか?」
「‥いや、なんでもない」

ぼそりと呟いた綱手の声にシカマルが小さく反応した瞬間、病室の扉が開く音がした。綱手、シカマル、ヒナタというあまり見かけることないグループ設定に思わず扉を開けた張本人であるいのは、踏み出した足を固まらせた。

「綱手様…と…」
「悪かったな。研修中だったのに」
「いえそれは良いんですけど…どうしたんですか?シカマルにヒナタまで…なんでシカマル寝てるのよ」
「説明めんどくせーから簡単に言うとキバとヒナタに連れて来られた」
「端折りすぎて分かんないわよ!」
「いの、シカマルの記憶が一部分抜けてる場所がある。そこを調べられるだけ調べろ」
「え…何かあったんですか?」
「ちょっとな」
「…?じゃあシカマル、ここじゃちゃんと調べらんないから情報部に来てくれる?っていうかあんた歩けんの?」
「そんな重傷に見えるか?」
「全ッ然見えない」

奇妙な雰囲気に首を傾げつつ、手をぶんぶんと顔の前で振りながらシカマルの言葉に否定を表すいのを視界から外すと、今だおろおろと目線を揺らすヒナタへ綱手は声をかけた。

「ヒナタ、お前まだ任務があるんじゃないのか?」
「あ…そ、そうだった…!…でも、」
「…チャクラが気になるのか」
「はい…」
「心配するな。…アイツを詮索するような真似はするなよ。まだ、な」

綱手の言葉にしっかりと頷いたヒナタは、頭を抑えてよろよろと立ち上がるシカマルを目に映し、付き添ういの、後を追うように去っていった綱手の3人が部屋から出て行くのを静かに見送った。

2014.08.19

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