なまえをあげたい

6
「(テメーはなんで俺の場所ぶんどってんだよ!)」
「(早い者勝ちだもーん)」

結局ご飯を食べた後も新しいイーブイは私の隣に居座っている。ピンクの髪のジョーイさんに泊まる所の鍵も貸してもらって、部屋に入った途端に2匹同時にベッドへなだれ込んでいた。まあ1つ訂正したいことと言えば、その場所は私の寝床である。

「それより本当にこのイーブイはついてくるのかな‥」
「(えー?ダメ?ダメなの?ねえ君交渉してよー)」
「(却下。俺は寝る)」
「(えー!!?)」

ダブルベッドの右の枕にぼすっと寝転んだイーブイに新イーブイが絡んでいる。うわあ。イーブイ鬱陶しそう‥

「んん、ダメじゃないけど‥私達には目標があって‥」
「(目標?何々?)」
「世界最強になるっていう目標‥」

ちょっと言ってて恥ずかしいけど。

「(なんかすごい大きい目標だね。とてつもなく大きくて、現実味がない!)」
「(テメー‥俺とナマエは本気だぞ)」
「(本気なのはそれなりに分かって‥‥って、あれ‥?私の話してること、分かってるの?)」
「うんごめん。全部筒抜けなの」

そう答えた途端、驚いた新しいイーブイがぴんっと尻尾を立てて、ぐるぐると私の周りを回りだした。めっちゃくちゃ興奮してるなあ‥。このやり取り、これから何度も何度もするんだろうな。早く馴れよう。そう思っていると、ぴょこんと膝の上に新イーブイが乗っかった。耳をぴこぴこさせて、キラキラと水色の瞳を光らせている。可愛い。

「(最強を目指す、私達と話せる人!面白い!面白そうだからもう絶対ついてくー!ちなみに名前は?!)」
「あ、ナマエ‥だけど‥」
「(分かった!ナマエね!よろしく!)」
「え‥ええと‥‥なんというか、いいの‥?」
「(任せて!バトルは嫌いじゃないから!)」
「(ケッ)」

わあ‥この2匹、仲も良くなるといいなあ‥。ぼんやりそう考えながら、私はソフィーさんからもらったモンスターボールを取り出すと、新イーブイの前に置く。それを見たイーブイが、ぽかんとした顔をした後に、コテンと首を傾げている。

「(‥投げないの?)」
「え?まあ、本当に私でよろしければボールに触れてください、的な?」
「(‥ナマエって変な人間だね。こんな変な人間初めて見たよ。私達イーブイって珍しいし色んな進化の系統があるから、捕まえたい人間ばっかりなのに。しかも私こんなに美人だし、綺麗な青い目してるし‥)」
「(自分が美人とか思ってるの引くわ。早くボールに入っちまえ)」
「(ねえこのイーブイ失礼ー!!)」
「う、うん‥」

いや、君もイーブイだからね。本当に、本当に大丈夫かな、この2匹‥。乾いた引きつり笑いが喉から出てくる。そして、そんな引きつり笑いが出てきたと同時、新しいイーブイはボールに触るなり赤い光に包まれて、大人しくボールの中へと入っていく。3回目の短いコールが聞こえ、カチリと音がした。‥あ、そういえば‥‥。

「どうしようイーブイ、重大な問題があった‥」
「(‥あ?)」
「名前がないとどっち呼んでるかわかんない‥!」
「(あ?あー‥ああ‥‥確かに‥)」








2匹が寝静まった頃、私は紙と鉛筆を持って机に向かっていた。ポケモンに名前を付けるのは初めてだ。どうしたらいいものか‥。そっとボールから出ている方のイーブイを見てみると、ご丁寧に頭を枕に乗せて、きっちり布団を被って寝ている。どこまでも人間臭い子だ。

「うーん‥‥‥あ、」

そういえば、ポケモン図鑑には漢字辞書とかなんて載っていないだろうかと考えてみたが、それを確認する前に、誰が置いていったのか、窓際の端に薄汚れた漢字辞書を見つけた。これはラッキーだ。漢字辞書を手に取って、片っ端からページを捲る。全部振仮名もふってあるし分かりやすい。その中で、私はとりあえずピンときた振仮名を紙に書き留めた。

「‥うん。ふふっ‥喜ぶかなあ」

この中から名前を選んでもらおう。そう考えて漢字辞書を一旦閉じると、紙切れを持って頬を緩ませた。

2016.09.28


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