べんきょうします

8
「雫起きてー!」
「(だめ‥そんなにたくさんのシチュー‥太る‥)」
「(どんなバカげた夢見てんだよ起きろ阿保)」

げしっ。後ろ足2本で雫のおでこを蹴り上げた殷は、最終的に顔をふさふさの尻尾で擽りながら雫を起こしていた。なんと酷い起こし方だろうか。寝覚めも悪いだろうに。周りのビッパに威嚇されてるのに、こちら側でコントを見せつけているみたいだ。

「(何やってるんだこいつら)」
「(仲間割れか?)」
「(1匹寝てる。寝てるぞ)」
「(ぼこぼこにするぞ!ぼこぼこに!)」
「(袋叩きだー!)」
「うわわ、殷、ちょっと、やばいって!」

何かを話していると思ったら、5匹同時にこちらへ向かってくるのが見えて、慌てて声をかける。雫はまだ寝ぼけている。夢の中ではまだ口の中にシチューが入っているのか、むぐむぐと動きが止まらない。これはさすがにヤバイのでは。急いで雫をボールに戻すと、溜息を吐いた殷の尻尾を掴んだ。

「(おいバカ!やめろ!毛が抜ける!)」
「バカはそっち!いいから逃げるよ!」
「(逃げるか!指示寄越せ!)」
「それが分かんないから困ってんでしょーが!」
「(俺の使える技覚えてんだろ、なんか言え!)」

使える技!?こんな状況で思い出せってか!!えーっと、ぎゃああ!5匹!五5匹もう近くにきてる!!前歯すっごい見えてる!!

「すなかけ!!?」
「(タイミングおかしくね?‥まあいいや)」

呆れたようにうな垂れた殷は、後ろ足を器用に使って砂を巻き上げ始めた。それどころか、そこら辺に生えていた雑草まで巻き上げる始末である。怖い。

「(うわ!!)」
「(っ、こいつ!目に砂が‥!)」
「(おい、少しは冷静になったか。次の指示)」

なんでこいつはこんなに余裕なんだ。少し悔しい。すたんと比較的低い木の上に着地して、上からビッパ達を見下ろしている。そこからはかいこうせんでも出しそうな勢いである。いや、覚えてはいないけども。

「でんこうせっか!」

その瞬間、目にも止まらぬ速さで木の上から飛び降りた殷は、1匹目の腹に思いっきり突っ込んでいった。相手も痛そうだけど、殷も痛いのではないだろうか。主に頭が。

「うわわあ‥」

1匹目が倒れたと思ったら、2匹目にそのまま突っ込んでいく。そして、3匹目、4匹目とまるでピンボールみたいに狙いを定めて行く殷は、5匹目の前で止まった。流石に連続のでんこうせっかは辛かったのだろう。大丈夫かと声をかけようとした瞬間、その私の考えは憂鬱に終わった。

「(さあ、サシで勝負と行こうじゃねえか)」
「(‥!!)」

いや、4匹目までは前座かい。連続のでんこうせっかでなぎ倒し、体力も消耗してしまったかと思いきや、ぴんぴんしていて目が爛々としている。キミはそんな子だったのか。嬉しいやら悲しいやら。なぎ倒されたビッパ達は、起きる気力がないのか、意識はあるものの死んだふり状態である。なんだか可哀想だ。

「(こんにゃろー‥!!くらえ!!)」

ドタドタと重そうに走り出すビッパに、なんだか可愛いなあとぼんやりしていると、殷から足を踏まれた。痛‥くないけど。

「(真面目にやれよ)」
「ご、ごめん!殷、たいあたり!!」

走り出した殷は、そのまま正面からビッパとぶつかり合う形になる。体重の差がある気がするが、果たして大丈夫なんだろうか。しかし要らぬ心配だったようだ。そのまま顎の下辺りに突っ込んだ殷のたいあたりは、どうやら相手の急所に入っていたらしい。ぽーんと空中に飛ばされたビッパは、自身の重さが仇となり、地面へ叩きつけられるように落ちて、気を失っていた。

「(肥満め)」
「いや、ビッパ的には標準体重じゃないの‥?」

2017.02.20


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