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「大地君何食べる?」
「あー‥カツ丼かな」
「相変わらず仲良いわねえ」

大学の食堂で大地君と並んでメニューを決めていると、顔見知りのおばちゃんがにこにこ顔で目の前に立っていた。仲が良い?それは当たり前だ。私と大地君はもう1年以上も付き合っているんだから、仲が良くなきゃもう既に別れているだろう。私は大地君と別れたいなんてほんの少しも思ったことはないけどね。

「はい、これオマケね〜」
「すみません、いつもありがとうございます」
「いいのよ、最近の若いのはちゃらんぽらんなのが多いから。澤村君と苗字さん見てるとおばちゃんほっとするのよ〜。あ、注文は何にする?」
「カツ丼と、私はサラダうどんで」
「はいはい〜掲示板で番号出たら取りにきてね〜」

作りたてのたこ焼き4つをパックで貰うと、そのままトレーに乗せて運ぶ澤村君。慌てて後ろを追いかけていると、そんなに走りなさんな、と振り向いて笑う顔が見えた。多分、空いている席をすぐに取りにいってくれたんだと思う。大地君はそのままトレーを机に置くと、当たり前のように水の入ったカップを乗せている私のトレーも手に取った。

「え、わっ」
「どうした?座らないのか?」
「座るけど、いいよ自分でやるよ」
「何を急に遠慮してるんだ。いいからほら」

いつも私のことを大事にしてくれる大地君は、大学の中でも外でも私のことをずっと甘やかす。嬉しいんだけど、そんなお姫様みたいな扱いしてくれなくてもいいんだけどなあ‥。机に肘をついて私を見つめる顔は、いやもうなんか。‥なんかすっごい優しい顔してるの分かるから恥ずかしい。慣れないなあ、もう1年も経つのに慣れない‥。

「‥大地君はホント、私のこと甘やかしすぎじゃない?」
「そうか?」
「自分でできるのに、大地君いっつも一歩先で全部やって待っててくれるんだもん‥」
「‥嫌?」
「い、‥嫌って訳じゃないんだけど‥」

じゃあ文句ないな。これは俺のスタンスだし。そう言って携帯を取り出した彼はそういえばとばかりに何かを検索し出した。なんというか、大地君には敵わない‥。本気でなんでもないことだと思ってやってるんだもんなあ‥。だからこっちは1年経った今でもドキドキしちゃうんだから。何を検索してるんだろうなと眺めていると、私の視線に気付いたのかふふんと笑って携帯の画面を差し出した大地君。なに、なに?

「‥あ!ここ!」
「前ここ行きたいって言ってたよな?チケット取ろうと思ってるんだけど、どうする?」
「でも大地君バレーの試合近いんじゃ‥」
「そこはごめん、試合終わってからになるんだけど‥」

バレーの試合近いのに同時進行で私のこと考えてくれていたのか。嬉しいんだけど、それは逆に負担になっているのでは‥?

「こら。なんかナマエ変なこと考えてるだろ」
「いやあの‥試合に集中してていいのにと思って‥」
「大地は試合に集中しすぎてるくらいだべ」
「あ、菅原君」
「サークル中絶対それ以外の話ししないし、人前でも惚気たりしないし。なのにいざ校内で見かけたらずっっっとナマエちゃんの隣に寄り添ってるし。だから俺は逆に安心してるんだぞ〜?ああ、ナマエちゃんのことほんとに好きなんだなーいて、」
「スガまじでやめて」

ぼふ、と珍しく赤くなった大地君は、スガ君の横っ腹をどすっと肘で打ち込んでいた。彼はとても優しいけど、あんまり私に振り乱されるようなことはないから、こうやって真っ赤な顔をするのはとても珍しい。だって、ずっと大人の余裕みたいなのがいつだってあったもの。

「‥まあだから、考えといてくれ。どうするか」

掲示板に私と大地君の番号が映し出されて、取りに行ってくるなとやっぱり一人席を立った彼は、もう1回菅原君の頭を小突いて行ってしまった。大地君に誘われたらそれはもう断る理由なんてない。なに、2人でどっか行くの?聞いてねーべ。楽しそうに詰め寄ってくる菅原君はがたがたと近くの椅子を持ってきて、そんで?そんで?とお尻から尻尾を振ってるみたい。

「内緒。大地君と私の秘密」
「ラブラブかよー、むず痒いわー」

大事な試合のことも私のことも、全部全部大事に思ってくれていたことが分かって嬉しくて、つい自慢げにそうでしょうと口に出した。例えば、もし私が泊まりにしたいって言ったら、それは流石に早いって怒られるかなあ?‥でも大地君なら甘やかしてくれると思うから言ってみよう。あわよくば、ちょっと焦って照れてくれるといいな、‥とか考えてみたり。

2018.02.26

はな様リクエストで仲良しカップルの日常に関するお話しでした。素敵なフリリクありがとうございました!