すばらしきぬくもり
深夜、珍しく非番になったその日の夜に昼間寝すぎたせいか目が覚めてしまった。隣には炭治郎が寝ていて、昨日の戦闘になったらしい禰豆子ちゃんも箱から出てきていない。隣の部屋に眠る名前ちゃんも寝ている音がする。ソッと布団から出て襖を開ける。藤の家紋の家は藤で覆われていて風に揺らぐ音が聞こえた。
(静かに、そーっと)
起こしてはならないと肝に銘じて縁側に出ると月明かりが綺麗な庭園を照らしていて、藤の花も相まって幻想的だった。
「綺麗だなぁ……」
このままこうして平穏無事に過ごしたい。鬼なんて意味不明な物と戦いたくない。怪我したくないし死にたくもない。悶々と考えていると寝返りの音がした。そして布団を剥ぐ音がして少しの足音と襖の開く音。名前ちゃんだ。
「あれ、善逸?どうしたの?」
「も、もしかして起こしちゃった…?」
「いやそんなことはないよ。ちょっと、ね」
厠かな。なんとなくそう思って口に出すのを止める。そそくさと歩く名前ちゃんの背を見送ってまた月を眺めた。
そうこうしているうちに名前ちゃんが戻ってきて隣に座った。
「どうしたの?」
「んーん、なんでもないよ。」
無言が広がるが心地よい無言だった。さわさわと藤の揺れる音と隣の名前ちゃんの心音。あ、今炭治郎が禰豆子ちゃんを寝言で呼んだ。
「ね、善逸」
「なぁに?」
スッと重ねられる手にちょっとだけびっくりして名前ちゃんを見るとしてやったり顔。ちょっと悔しいなあ。
「手、繋いでいい?」
「……もう繋いでるじゃん」
先程より強く握って指を絡めてみる。隣からクスクス笑う声が聞こえた。
すばらしきぬくもり。
fin.
2020.03.25
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