色んな幸せの形。
「行ってきます!」
「行ってらっしゃい!気をつけてねー!」
俺は我妻善逸。結婚してまだ半年の新婚ホヤホヤ夫婦。今日も1日嫁を支えるために頑張りたいと思う。
「っしゃ!洗濯するぞ!」
……家事の方で。
1年前。
「今日も怒られたぁ……」
オロロンオロロンと嘆きながら涙を流す。ガチャリと帰宅してすぐに、当時まだ同棲中だった彼女へと泣きついたのだった。
「善逸は慎重派なんだよ。時間かかるのは仕方ないし、ミスするより全然いいよ!」
そう声をかけてくれるのは彼女の名前ちゃん。同期なのに成績優秀でずば抜けて頭がいい。勿論顔もいい。
「そう言ったってさぁ…」
ハゲ散らかした上司はガミガミガミガミ毎回同じことしか言えんのかってくらいガミガミガミガミガミガミとガミガミガミガミ……ガミガミ……
「まぁまぁ。ほら、ご飯食べよ?」
「うん…」
ぐすん、名前ちゃんが手を引いて俺を席へと座らせてくれる。あの日の晩御飯は筑前煮とおひたし、お味噌汁にサバの味噌煮だった。ほかほかの真っ白な白米が艶やかで見ているだけでヨダレが出てきたなぁ。
「は〜……名前ちゃんの料理、美味しい…」
「ありがとう。でも私は善逸のご飯が好きだよ」
「そうなの?知らんかった」
「普通に嬉しいし、めっちゃ美味しいよ!」
「じいちゃんに感謝だなぁ」
「うん!今度また遊びに行こうね」
「じいちゃん、喜ぶよ」
ぱくぱく、ぱくり。もぐもぐと咀嚼しながらその日あったことやテレビのことを話す。この時もなんの気なしに彼女が放った言葉が俺を主夫へと導いてくれた。
「善逸が主夫してくれたら、私はもっと、好きな仕事出来るのになぁ」
そして今に至る。
あの頃俺は仕事が上手くいかなくて、でも名前ちゃんは軌道に乗ってて昇給も早く、いつまでも不甲斐ない俺にプロポーズをしてくれたのが名前ちゃんだった。
「私が善逸を幸せにしたいの。」
あれは痺れたね。
パァンパァン、服のシワを伸ばすようにしてハンガーや物干し竿に掛けていく。洗濯物が終わったら簡単に掃除して、お昼食べたら買い物行こうかな。
「あ、と、そうだ」
スッとエプロンのポケットから名前ちゃんとお揃いのスマホを出してアプリをタップする。
「今日の、晩御飯、なに、食べたい?、と」
返事まで少し時間はあるだろう、その内に洗濯物を欲し終えて、朝食の後を片付ける。買い物リストを作るために悶々と何が必要かを頭に浮かべながら掃除機を掛けているとピコンとアプリの音がした。
『今日、外の温度30℃超えなの!だからあっさりしたやつがいい!』
その下に今流行りの"名前はそう思う!"というスタンプが続いてフフッと笑った。
(じゃあ今日はぶっかけうどんとかどうでしょう?)
『賛成です。ついでにおろしポン酢を作って、唐揚げと和えてくれませんか?』
(いいでしょう、賛成です)
『ビール冷やしてください!』
(キンキンに冷やしておきます)
『ははー!』
"名前参りました!"のスタンプ。
「ふ、何やってんだろ、俺たち」
笑いが止まらず、少しソファに座って余韻に浸る。
あー幸せ。スッゴイ幸せ。
テレビでは政治家もどきが口論とかしてるけど全く気にならないや。
(買い物リストに鶏肉とかうどんとか追加だな)
晩御飯の風景を思い描きながら、家中に掃除機をかけるのだった。
fin
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