04


HRが終わり、携帯を見るとメールが来ていた

『駐車場にいるから』

………いや、全然意味わかんないんだけど。


教室を出て即電話をかける

『はーい』

「こ、駒田さんどうしたの」

『ん?今日もノヤちゃんに会いたくて』


…むしろ今日ばいばいしたんだけどね。

携帯を切り小さくため息をついて、昇降口に急ぐ。


今の時間は4時
会社切り上げるの早くない

黒のお高い車を発見して腕を組んで睨む。『何の用だ』と。


すると、中から『おいでおいで』と手招きをされた
もー、つか高級車なだけで目立つのに。


「あれ、うみ」


そんな時、聞こえたのはあいつの声
ドキリと心臓が鳴ったのは突然声を掛けられたからか、あいつの声だったからか。


「……あぁ、秋斗」


お前も帰りか、と白々しく笑いながら近づく
隣には例のあの子

運動部だからか髪はショートだけれど、それでも女の子らしい雰囲気を纏っている。少し控えめそうな垂れ眉がよりいっそう庇護欲を出させる彼女

「うみくんもこれから駅?」

……お前が俺のあいつだけのあだ名を使うな

そういってやりたくなるが、そんなアホな事言えないので「いや」と普通に返答をする。

俺より身長が小さいからなのもあるけど、その上目使いマジでやめてくんねぇかな。

「珍しいじゃん。いつも直帰するうみが。」

「これから知り合いと会う約束あるんだ」

約束っていうか、今決まったことだけれど。

二人の視線が、一気に俺に来てるから居たたまれなくなる

この場の空気を吸いたくないと思うほどに、逃げ出したかった。

「うーちみ」

すると、俺の名前を呼ぶ第三者の声がして反射的に顔をあげる。

うちみ。
俺のこと、いつも「ノヤちゃん」とふざけた名前で呼ぶのに。


「何分待たせる気なのよ」

「……10分とちょっと」

「早く。俺スーツだから目立つ。」


…いや、スーツどうこうじゃないと思うけど。
実際、秋斗も秋斗の彼女もその周りに居合わせた人たちも駒田さんに釘付けだ

そりゃあ、高そうなスーツ姿にこんなイケメンじゃね。

ほんと……若いのに何の仕事してるんだか。


「う、うみ…」

「悪いね、内海貰うよ」

「俺を物みたいに言うな」


文句を言いながら駒田さんについてって車に乗り込む

一応、秋斗に「映画楽しんでこいよ」と言ってから。




窓越しに見える、秋斗の姿

背も高くて、顔立ちも良くて女子に大人気なのも頷ける

けれどその隣には可愛い女の子


あーあ。



「ノーヤーちゃん」

「……なに。」

「そんな顔してると、またチューしちゃうよ?」


顔を覗かれて、思わず顔を背ける
まだ、校内なのにそういうのしないでほしい。


「俺、どんな顔してたの」

「あいつが好きで好きで堪らないって顔」


…ムカツクね。と、駒田さんは軽く笑ってエンジンを入れた


「あれが噂の男ねぇー。やっぱ俺の方がイケメンだな」

「ナルシ」

「事実だろ」


…俺は、秋斗の方が好きだけど。

つかどうして駒田さんは、あれが俺の思い人だってことに気づいたんだろ。

秋斗にはもう目も向けずに下を向いていたら車が動き出した

映画ね。
前は何回も一緒に行ったけど。


「……今日はどうしたの」

「ご飯食べたい」

「はあ?」


なに、俺一人飯が嫌な理由で連行されるわけ


「そのあとえっちも」

「……そんな声で言ってもかわいくねーよ」

「えー。」


さっきの女の声色真似しただけだけど。と駒田さんが笑う。
…もしかして秋斗の彼女のことか。


「あの女、ちゃっかりノヤちゃんの事も狙ってるかもね。」

「んなことあるわけないじゃん」

「いやー。ノヤちゃん綺麗だから。」


……そんな事ないし。
つか、ちょっと見たくらいでわかるのかよ。

軽く呆れていると、駒田さんが「んでね」と話を続けてきた


「今日は時間が余りに余りまくってさあ、やっぱ仕事出来る男ってつらいな」

「なんで俺」

「学生の帰宅部ほど暇な奴はいねーだろ」


…まあ、否定はできないな


「女の人の方がホイホイなんじゃない?」

「えー、やだよ。調子のりそうだから」

「確かにね」


信号機が赤で車が止まる
こちらを向く駒田さん

なんだろうかと俺も振り向くと「チュッ」と可愛らしい音が響いた
唇を吸われた感触


「こんな場所でやめてよ」


誰かに見られてたらどうするつもりだったんだ
胸板を押して駒田さんを放す


「拒否?」

「お断りだね」


こんな場所で。
顔をしかめていると、駒田さんがニヤリと笑う
嫌な顔。


「…ムラムラしてきちゃった」

「おい」

「ちょっと予定変更しちゃおか。」



………え。






これだから年上は