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ある女優がとても嫌いだった
あの人が一番好きな芸能人だから。
CMで見ると、すぐにチャンネルを変えて、忘れようとした


ある女の子が嫌いだった
あの人の視線を独り占めしてたから。
その子のいるクラスには近づかないようにした


『一緒にいると落ち着く』
俺にそんな優しい事をいうあの人が嫌いだった
優しい言葉だけじゃなくて、声も、表情も、全部
俺をこんなにも苦しくさせる原因のものだから、嫌い

でも、俺の嫌いなもののなかで唯一違うところは

一方で彼を狂おしいくらい好きだということ。


「うみ、聞いてよ」

こいつだけが唯一使う俺のあだ名
野矢 内海 だから、うみ。

「ん?どうした?」

「俺映画いこうと思うんだけど、何がいいかなぁ」


………俺、じゃなくて俺ら、だろ。
ため息をつきそうになって、息を止める


「アクションって、女の子どうなんだろ。やっぱりラブストーリーとかかな」

「下手に映画選ぶより一般ウケしてる映画見に行った方がいいんじゃねーの」


呼吸を再開したらやっぱりため息が漏れた
ヤツは「そか」と目を柔らかく細めて微笑む


「うみの言う通りかも。そうするね」


そう言って俺の肩を叩きながら教室を出ていった

………なんで、わざわざ俺のところに聞きに来るかな
クラスも違うし、階も違う
おまけに愛しのあの子は同じ教室にいるじゃないか。

力を入れすぎたシャーペンの、芯がパキリと折れる音が耳に溶け込む

あいつ…………秋斗は、いったいどれだけ俺を苦しめれば気が済むのかな。

親友

その肩書きが、嬉しくもあって、

とても憎かった。





お前の知らない俺