09


「…………そういえば、昨日映画どうだった?」

「ん?見てないよ」

「え」


見てないのか………
映画館にいたくせに…

苦し紛れに出した話題がすぐに終わりを告げた
俺としては聞きたくなかったけれど


「見る気も失せちゃって。」


そう言って苦笑する秋斗

よくわからずに秋斗を見上げると、じ、とこちらを見てくる秋斗と目があった


「……どうした?」

「…………いや。うみって俺に秘密事ばっかだよね。俺は全部言ってるのに」


その言葉に内心ギクリとした
なんで突然そんな事…


「ねえ、うみ。」

「……なに…」

「俺に何か言うことない?」


秋斗はいつもどおりの優しい表情をしていたけど、それが逆に怖かった

・・・秋斗は何か知ってるんだろうか

どれに関して言ってるのか、全然わからない。
下手に何か言ってバレたくはないから、黙っていると秋斗が目を細めた


「首のこと聞けば、わかるかな。」

「っ……!!!!」


その言葉に全部気づいた
カアッ、と熱が顔に集まり頭の中がグルグル回る

キスマークの事だ
バレた。いや、でも、男相手だなんて、わかるはずない。


「恋人が出来たの?」

「いや、違う…これは、」

「うん?」

「・・・」


なんていえばいいんだろう
秋斗は俺の返答を待っている

駒田さん、どういう風につけたんだ
首につけるなって、言ったのに
この事を忘れていた俺も馬鹿だったけど


「まさか、変な人とさ、そういう事しちゃう仲になっちゃった訳じゃ、ないよね。」


一つ一つ、ゆっくりと
確認するように俺の眼の横、頬、唇と指を滑らせていく秋斗

前は肩に触れられるだけであんなに胸が高鳴ったのに、なぜだろう、今は全く違う

頭の中で響く心臓の音がまるで警鐘のように鳴っていた


「あ、秋斗…何言ってるんだよ、てか、なんか変だぞ」

「変かなぁ。…そういううみも顔真っ青だね」


わざとおどけた俺に対して、いつもの笑顔で秋斗がそう答える
何もかもお見通しだとでも言われてるかのように、俺の逃げ場をどんどんなくしていく


もう何もかもばれてる

そう思った瞬間だった。



「ねえ、そういう事してたんでしょ?」

「・・・」


重たい一言。


これに頷いたら、秋斗は失望するんだろうか
けれど、ここでまた嘘を重ねたら不味いと思って小さくうなずいた
いっそ嫌われた方がマシだって、ずっと思ってたじゃないか
べつに今さら構わない



・・・本当に?



「………昨日の男かな?」

「っ…」

「一緒にいたもんね。最近まで全然気づかなかったけど」


女性相手ならまだしも、男相手だなんて秋斗はどう思ったんだろう。キモイって、絶対思ってるよな


「お…おれ、俺…」

「まあ、良い男だよね。年上で」


バラされたら終わりだ
いや、秋斗にバレた時点で、終わった
男がセフレなんて、どうすることも出来ないだろ


「誰かとセックスしたかったの?」

「ちが…っ、」

「なんで俺に言ってくれなかったの」



そんなの…言えるわけ、ないじゃないか



お前を好きなんて