誤算、伝染中 | ナノ
18

侑くんとキスしているところを見られたとか…
いや、見られたって確信はないけれども、あの反応

明らかに見ちゃいけないものを見てしまったって感じだったし。
そりゃそうだ。兄と弟がキスしてるとか。さすがに引くだろうよ

なんで侑くん、あんな人目につくようなところでキスなんて。



「またお会いしましたねえ書記さん!」


壇上に上がって早々、煩い実況者が俺に話しかけてきたが、俺は正直どうでもよかった。

右隣にいる侑くんの存在に胸がバクバクと痛い。
なんなら今にも倒れそうなくらい動機息切れがするし、身体まで熱いし。

自分がいまだにメイド姿だという羞恥も、侑くんのキスのせいで吹き飛んでいた


「というかまだメイド服なんですねえ〜弟さんとお揃いじゃないですか〜〜〜!」


まあ俺の体操服パクられたからな。

お揃い…。
言われて侑くんの服をチラリと見てみる。

黒の燕尾服。スタイルが良い侑くんは本当に本当に魅力的でしかない。
対して俺はメイド服。まじでなんで女装なの。もうどうでもいいけど。


「弟さん、憎たらしいくらい滅茶苦茶格好いいですねえ〜、ただでさえ男前なのに余計に男前になっちゃってますね!」

「…どうも。」


侑くんをジロジロ見てる司会者に侑君は面倒くさそうに相槌を打った。俺からしたらなに当たり前のこと言ってるんだよって感じ。

侑くんをじろじろ見られてムッとするが、侑くんをほめられているのは満更でもない。


「俺の弟ですからね」


侑くんを褒められて若干ドヤ顔を浮かべてしまう
誰がどう見ても格好いいもの。いつものことなんだけれど。
俺の自慢の侑くん。
最近、ちょっと、なんか、いつもの侑君じゃなくなってる。どうしちゃったの、本当に。


「いやいやいや書記さんも十分可愛らしいですよ!」

「侑くんの可愛さには勝てないです」


俺なんかより侑くんの方が何億倍も格好いいし何億倍も可愛い。

俺がそういうと相手は「え?」みたいな顔をした。「かわいいか?」みたいな顔。他人に毎回こういう顔をされるけど、うざすぎ。何も知らないくせに。
大体俺の話はいいんだよ。お前は侑君を褒めてればいいんだよ。


「涼の言ってることはほっといていいんで」


ため息交じりに侑くんはそうつぶやいた。俺はふと侑くんを見上げてしまう。

俺の視線に気づいたのか、俺のことを見下ろす侑くん。
目がばっちり合ってしまって、さっきのキスを思い出してしまった。やばいやばい。一瞬だけ頭の中から飛んでいたというのに、また復活してしまった。

う、うわあ…

侑くんのことを見てられなくて足元にパッと視線を落とす。
ちょっとあからさますぎたかもしれない。


「?書記さんどうなさったんです?」


顔を真っ赤にして俯いたから案の定つっこまれた。
俺は首を横に振って否定をする。


「いや、あの、…なんでもないです」


俺のしどろもどろな回答に、侑君のフッと笑った声がした。

う゛っ…!

絶対侑くん今、不敵な笑みを浮かべてるんだろうな。どうして侑くん、そんなに余裕なんだろう。誰かに見られてしまったっていう心配とか気にしないのかな。


「とりあえず引いたクジを先輩に渡せばいいですか?」

「あっ、はい。僕に渡してくれれば…」


俺が喋れなくなった代わりに、侑くんがポケットからくじを出した。
侑くんの指に挟まれている、俺を選んだ理由が書いてあるくじ。

ど、どういう理由で俺を選んでくれたんだろ
兄弟とか、そんなドンピシャなお題なわけないだろうし。


「…気になる?」


俺が侑くんの手元をガン見してたからか、侑くんが俺の目の前でくじをひらひらさせた。


「えっ」

「見すぎ」


侑くんは、また微かに笑ってくれた。
俺がくじ発表をしたときと違って、落ち着いている様子の侑くん

逆に俺がどきどきしてる
侑くんが笑ってるせいなのか、俺を選んでくれた理由が気になるからなのかわからないけど。

すると、今度は侑くんが先に俺から視線を外した。
侑君から実況者の人にくじが手渡されて俺もそれを目で追う

うわあ…っ

なんだろう、ほんとうに。侑くんが俺を選んだ理由。
どんな気持ちで俺ここに立ってればいいんだ。

実況者がそのぐしゃぐしゃに畳まれた紙を見たと同時に、大きな感嘆のため息をはいた


「うわあ〜〜〜〜なるほど〜〜〜〜〜〜へえ〜〜〜〜」


ザワザワと盛り上がりを見せる会場内
俺も一緒になってざわざわする

えっなにっ
まじでなに

実況者の人もなんかニヤニヤしててうざいし


「お二人とも相当仲がいいんですねえ〜」

「えっ、あ、…まあ?」


最近はなんとも言えないけれども!
一体どんなお題を見たらそういう感想が出てくるのか

俺が置いてけぼりのまま、実況者は一人盛り上がって会場にマイクの声を響き渡らせる
このあと発表されるってわかってるけど、俺は気になって仕方なくて、侑くんの袖を引いた


「なに引いたの、侑くん…?」


直接答えてくれるかもわからないけど。
待てば聞けるし。でも、侑くんの口からききたかった。

侑くんは俺の問いかけに、数秒してから俺を見た。
胸がどきどきと苦しくなるけど、どうにか耐えながら息を呑む

すると、侑君は俺の耳に顔を近づけてきた


「えっ、ゆ、侑くん、?」


侑くんの顔の近さに俺は滅茶苦茶テンパる
待って待って待って、なに。

息が、
息が、耳に、あたる



「聞きたいんじゃねえの?」

「そ、そうだけどっ」


だからって、耳元で教えてくれなくてもよくないっ?
今実況の人に注目集まってると思うけど、俺らのことを見てる人はゼロではないわけで

こんなに顔、近づけられたら、
俺顔真っ赤にして慌てちゃうし、

弟にこんなガチ照れしてる様子を見られたら俺…!



実況者の人と、侑くんがお題を言うタイミングはほぼ一緒だったと思う。

俺以外のその他大勢は実況者の人の声で。

俺だけが侑くんの声で。


「かわいいひと」


と、

侑君が俺をつれてきた理由のお題を聞いた。




prev mokuji next
bkm