誤算、伝染中 | ナノ
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俺らが世間話をしている間に千歳が戻ってきた。手には1位の旗。何事もなかったかのようにちゃっかりと一位を取っちゃうんだから恐ろしい。汗一つ浮かんでない。


「お帰り千歳」


ドカッと怠そうに着席した千歳に一応声をかける。白組のはちまきを首元にだらんと巻いてる千歳。雑すぎだろ、他にもっとマシな巻き方あるでしょうが。


「さすがだね、会長」

「さらっと一位とっちゃうんですもんね〜」


俺の知っている限り、こいつが1位じゃなかった時なんて見たことが無い。一位を取って喜んでるところも。そう考えると、こいつ何に楽しさ見出してんだろ。


「あ、あの、」


すると、聞き慣れない声がした。
ふと顔をあげると、知らない顔の生徒5人ほどが千歳の前に。
全員可愛い顔をしていて、中心にいる子がタオル、その隣が飲み物を持って顔を赤らめている。

その様子を見て、ああ、差し入れか、と思いながら肘をついた。


「お疲れ様です、三善様っ。これ、もし良かったらご利用ください!」


中心の子を筆頭に「一位おめでとうございます!」やら「素敵でした!」と騒がしくなる。小鳥遊はそれをにやにやしながら見つめ、紫乃さんは少し苦手そうな顔をした。この5人は千歳ファンたちの中でも選ばれた5人なんだろうか。ほかにも押し寄せてこられたら大変だ。


「いらねえ」


しかしそれを呆気なく切り捨てた千歳。
あら。


「えっ、す、スポーツドリンクも御座いますよ」

「そういうのは涼が用意するから」

「いや、なんでだよ。」


初耳なんだけど。
まさかの振りに思わずつっこんでしまった。俺に視線を寄越す5人組。ちょっと、いや、かなり視線が刺々しい。…この人達3年かな。


「貰ってあげなよ…せっかく用意してくれたんだし」


ゴタゴタに巻き込まれるのは面倒なので、俺はそっぽを向く。三年の千歳ファンは面倒くさい。有岡さんファンとどっこいどっこいだ。

しかし俺のいう事なんて一切聞かない千歳。もちろん、彼らの言ってる事も聞く気はないらしく、ごちゃごちゃ話し続ける彼らに「二回言わせんな」でシャットアウト。

千歳ファンは渋々退散。
俺に視線が集まっていた気がするけど、俺は気づかない振りをする。


「俺お前のパシリじゃないんだけど」


彼らがいなくなったところで千歳にブチ切れた。
絶対俺恨まれる彼らに。
気にしないけどさ。


「白組に貢献できねえんだから俺に貢献しろ」

「はい?」


その俺様発言に俺唖然。
口を開けばなめたこと言いやがって畜生。俺が役にたたないからって雑用やれってか?あ?拳を握ってぶるぶる震えてると紫乃さんに背中を撫でられた。


「決めつけはよくないよ。今年は涼も1位とるかも」


そう言ってフォローしてくれる紫乃さん。
ね、と微笑まれるが、正直一位となると簡単にハイとはいえない。せっかくフォローしてもらったのに「う、あー、」と歯切れの悪い返事をしてしまう。


「そ、そうかもしれないですね。三位、くらいは…」


小刻みに頷きながら、チラ、と千歳を見てみたらせせら笑っていた。めっちゃ馬鹿にしてる。紫乃さんの優しさをこいつに分けてあげてくれ。


「今年は転ばないと良いな」


しかも俺が一番気にしていることを言ってきやがった。


「うるさいな!俺だって転びたくて転んでんじゃないんだからな!」

「去年転んだんですか?」

「そうだよ!小鳥遊も転んでしまえ!」

「とばっちりじゃないですか」


クソー!運動できる人間はいいよな、こういうイベント楽しく感じれるから。俺なんて全くだよ。しかも、出場種目が2番目くらいに注目あるやつだし。一番はリレー。

去年は走り終わってテント戻ってきたとき、前会長が大爆笑してた。転んだ事を笑うのならばまだしもお前の走り方マジウケるって言われて俺大激怒。余計に体育祭嫌いになったよね。


「今年涼が借り物出るって聞いて、有岡気合入れて企画してたからきっと楽しめると思うよ」


…有岡さんが気合入れている時点でまず怖いんだよな。恐ろしい借り物のお題が来そうで。


「わぁ〜いろんな意味でドキドキですね」


今の話を聞いて笑う小鳥遊。たぶん俺と同じでやばい予感がしているんだろう。酷いことに有岡さんは俺らにお題の内容とか全く見せてくれなかった。だからどんなのが来るのか全くわからない。


「でも涼さん、出場種目が一つだけってなると暇ですね。」

「暇な方がいいよ。疲れないし」


俺が出るやつは、午前の部最後になっている。から、それが終わったら午後の部はまじで暇。寮でサボっててもバレない。たぶん。

でも、去年と違って今年は侑くんがいる。
色々あったけれど、侑くんが活躍してる姿は見たいもので。本当にたくさんたくさん応援したい。でも侑くんを前にするとドキドキしちゃって挙動不審になっちゃうから、離れた場所から観戦することにする。
遠くから応援するくらいは、いいよね。

侑くんにバレなければ、恥ずかしくないし。




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bkm