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ついにこの日が来てしまった。
六月某日。
雨でも降ってくれれば良かったものを、残念ながらの快晴。
眩しい太陽を恨みがましく睨む。くっ、眩しい。
こんなことをやるくらいなら、試験を三回受けた方がずっとマシだっていうのに。
「やっとこの日がきたねぇ涼」
ナーバスになっている俺と違って、有岡さんはとっても晴れ晴れしい顔をしていた。
何故こんなにも楽しそうでいられるのか。俺は全く気乗りせず、暗い声のまま「そうですね」と呟く。
「なぁに涼、そんなに嫌なのぉ?」
「ずっと言ってるじゃないですか、もう、もう」
去年も嫌だったけど、今年は出る種目が嫌だ。
じめじめとウザったい俺に「うざいなぁ〜」と言いながらも、俺の頭にはちまきを巻いてくれる有岡さん。今日の有岡さんはボブの髪型に、リボン結び?女子結び?ではちまきを巻いてる。久々だな、ボブヘア。
「いいじゃぁん、借り物競争。一番華形競技だよ。」
「よくないです…」
そう、俺はクラスでのくじ引きで最悪なのを引いてしまったのだ。クラスで赤白一人ずつしか選ばれないこの競技。俺は玉入れでいいと言っていたのにこれだよ。
ちなみに生徒会メンツのほとんどは全員リレーに出場するらしい。
足速いからなみんな。出ないのたぶん俺と升谷くらいだ。
そうこうしてるうちに、生徒たちの大きな歓声が聞こえてきた。たぶん、千歳がスピーチを終えたんだろう。
バラバラと移動し始める生徒たちを見ながら、俺も白組テントに移動しよう、とため息をつく。真澄が紅組だから余計に孤独感が半端ない。
「涼」
そう思っていたら司会を終えた真澄が俺のところに来てくれた。赤のハチマキを手首に巻きつけてる真澄。真澄、赤、似合わないな。
「怪我しないようにね。」
「しない方が難しいと思うけど…」
完全にひねくれてる俺は面倒くさい事しか言えない。苦笑する真澄。俺の頭に視線を送りながら「それ可愛いね」と言ってきた。
「?あぁ、有岡さんに…。」
「似合ってる。ねえ涼、なるべく生徒会の誰かと一緒にいるようにしてね。前みたいなことがあったら心配だから」
「わかってるってば」
今日を迎えるまでに何回も言われたこと。誰かと一緒に行動しろ、危ないから、と耳にたこが出来るくらい言われた。確かに前みたいな事は二度とごめんだけど(千歳とか真澄が面倒くさい)、あんなこと普通ないしなあ…。って言ったらまた怒られそうだから素直に頭を縦に振る。
「大丈夫だよ、俺がいるから」
不意に肩を引き寄せられた。ふんわりとした甘い匂いと柔らかい声。見上げてみると、紫乃さんがいた。
紫乃さんがあまりにも格好いいことを言うもんだから、どきっとしてしまう。
い…イケメンかよ…。
「涼をお願いします」
「ねえ、なんなの、真澄俺の母親なの?大丈夫だって」
恥ずかしい。紫乃さんは優しく笑いながら「こちらこそ有岡をよろしく」って言っていた。俺は真澄に手を振ってから、紫乃さんと一緒に白組のテントへと向かう
「それ、似合ってるね。可愛い」
「はちまきですか?紫乃さんもお揃いですね」
「俺は似合ってないでしょ」
有岡さんにやってもらったんだろうか、可愛らしい。
紫乃さんは恥ずかしそうにはにかんでるけど、正直、かなり似合ってると思う。千歳とかだったら全く似合わないけど。グロい。
「紫乃さん、リレー以外何出るんでしたっけ」
運動得意な人はいろんな競技に駆り出される。真澄だってそうだ、あいつは3種目くらい出る。
「俺は騎馬戦にも出るよ。会長が王様」
「あ、千歳も騎馬戦でるんですね…」
紫乃さんと千歳が出るってことは、有岡さんも出るんだろうな。これはファンの子たちが騒ぎそう。むしろ出場してどさくさに紛れてセクハラしまくったりして。よくあること。
白組と紅組はテントが別々になっていて、何故か生徒会は優遇されていて最前列に席が用意されてる。別に見てても退屈なんだけどさ
「涼は借り物競争だけ?」
「当たり前じゃないですか、恥晒すのは一回だけで充分です」
今年は転ばないようにしようと本当に思う。
でも借り物競争の恐ろしいところはそれだけじゃない。
有岡さんが企画したお陰で、何故か、借り物+仮装が混ざっている。
つまり、仮装しながら借り物をしなければいけないということ。
去年の二の舞になる未来しか待ってない気がしてならない。
「小鳥遊くんと侑介くんも借り物にでるよね」
「…そうらしいですね」
学年が違うから、一緒に走るわけではないけれど。
昨日、頑張って侑くんに話しかけて何に出るのか聞いてみた。
侑くんは俺に急に声をかけられたからびっくりしたみたいだったけど、それでも教えてくれた。嬉しかった、侑くんと話せて。
「今回くらいは俺を応援してくれますよね?」
うわっ、びっくりした!
急に耳元で声がして、反射で振り向くといつのまにか小鳥遊がいた。にこ、と笑いながら首を傾げている。
顔近いな
「侑くん応援するに決まってるでしょ!」
「たまにはいいじゃないですか、俺選んでくれても」
小鳥遊の戯言に眉を寄せると「ツレないなあ」と言われた。
いくら侑くんが敵チームだからといえ、応援しない訳がない。俺は全力で侑くんを応援する。俺の隣の席に座りながら「会長は?」と聞いてきた。
「最初の競技ってなんだっけ。」
「徒競走。あ、そういえば会長徒競走も出るんだった。」
「はぁ〜、大変ですね」
完全に他人事すぎる。個人種目となれば、千歳が負けるわけないから応援する必要もないし。あとファンのこたちが勝手に熱い応援してくれるだろう。
「小鳥遊は、借り物とリレーだけ?」
「そうです、全部侑介と一緒。」
ムッ。
なんだそのお揃いアピール、むかつくな。絶対お前の事応援しないからな。
「あはは、あからさまに嫌そうな顔してますね」
俺の顔を見て小鳥遊が笑った。紫乃さんも俺の顔を一目見ようと、俺の顎に指を添える。そして、俺の顔をみて「ほんとだ」と目を緩めた。なんだよ、見世物じゃないぞ。
「涼もリレーでればお揃いになれるよ」
「・・・俺がリレーに出れるわけないじゃないですか」
学年別で2人ずつしか選ばれないんだぞ。各チーム6人でやる競技だから。
そう考えると生徒会のメンバーってやっぱ運動神経よすぎると思う。
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bkm