7
生徒会の間もそうだったけれど、生徒会が終わって部屋までの帰り道、俺は猛烈に後悔する羽目になる。
おれ、まじで、情けないことをした。
情けない事というのは、さっきの組み分けへのわがまま。前はこんなことを平気で言っていたことが尚更おれを恥ずかしくさせる。
侑くんを意識しなければこんなに恥ずかしくなることもなかったんだけど。
「…具合悪いの?」
俺がひたすら真澄に張り付いていたら、真澄がそう聞いてきた。俺に後ろから抱きつかれている真澄。歩きづらいだろうに、なにも文句を言わずにいてくれた。
「ふつう」
「…じゃあ、そんなに侑介と別の組だったことが嫌だった?」
「えっ」
いつの間にかエレベーターのところまで来ていたらしく、エレベーターの扉が閉まった。
真澄が俺の腕を解いてこちらを見下ろす。俺が無言で真澄に張り付いてるから、拗ねてると思ったんだろうか。
「そのことは、別に…」
どちらかといったら、あんなわがまま口にしなければ良かったという後悔が大きい。あと、侑くんのあの笑みが脳裏に張り付いててそれを思い出すたびに恥ずかしくて仕方ないから、真澄の背中に顔を当ててた。
「最近、涼大人しいよね」
真澄は突然そんなことを口にした。瞬きをする俺の目元をすっと撫でる真澄。いつもの淡白そうな瞳が俺を捉える。
「そうかな…?逆に煩いって注意されることが多い気がするけど」
「ああ…確かにそうだけど、でも前よりずっと口にしなくなった」
「何を」
「侑介のこと」
その名前が聞こえた瞬間、ギクッと身体が跳ねた。真澄は俺を見ていたからそれを見逃さなかっただろう、俺はサッと視線を逸らしたけど全くもって意味が無い。
「そ…そうだっけ?」
「自分でもわかってるくせに」
そんなことを言われたら、俺は何て答えればいいかわからない。とぼけようとしたのに、真澄は俺を逃がしてくれないらしい。
返事に迷って視線を右往左往させていたら、ちょうどエレベーターが開いてくれた。ありがたい!
「お…降りよ?真澄」
真澄の腕をぎゅっとつかんでエレベーターから降りる。
今すぐ話を逸らさなければ、と頭の中で話題を考えるけれど何も出てこない。どうしよう、困った。侑くん関係の話はなるべくしたくない。ボロが出ちゃうのが、怖いから。
でも真澄は、エレベーターを出たところで足を止めた。
「侑介と何かあったんでしょ?」
「う…あ、いや…」
「帰ってきた日から、お前、変だよ」
真澄の腕を握ってる俺の手をぐっと引き寄せられた。そして真澄の顔が俺に近づく。
この前の千歳といい、なんなんだ。
俺と侑くんがギクシャクすると何か悪い影響でもあんのかな。どうして、指摘してくるんだろう。
俺はこの話題に触れたくないのに。
「そうでもないけど…」
わかりきってることかもしれないけど誤魔化した。
真澄から距離を取るようにして顎を引く。寮の廊下だってのに、あまりにも距離が近すぎる。
けれど、俺のその誤魔化しに真澄は眉を寄せた。たぶん、明らかに嘘なのになんでそんなこと言うんだって思ってるんだろう。
「涼がそうなる理由を俺には教えてくれないの?」
そう言って俺の顔を覗き込む真澄。俺の腕を掴むその手は強く、けれど声は少し、小さい。
俺は真澄の綺麗な瞳を見つめ返すことが出来なくて、足元に視線を落とした。
確かにどこか心の奥底では、誰かに相談した方がこのモヤモヤが晴れるのではないのかとも思う。
でもいくら親友といえど、言えないものは言えない。真澄は俺の事を心配してくれてるかもしれないけど、だめだった。
手をぎゅっと握って、何を口にすればいいかわからずにいると、「ごめん」と言いながら真澄が先に手を離した
「え?」
「詮索しすぎた」
俺が困惑してると察してくれたのだろう。俺の頬をスルリと一撫でし何故か謝ってきた優しい真澄。
さっきまで重なっていた影が、ふ、と消える。
俺が顔をあげた時には真澄は俺から離れていて。俺は瞬間的に罪悪感に苛まれる
「なんで謝るの」
「お互い答えたくないことくらいあるし」
咄嗟に腕を掴む俺にふ、と笑う真澄。「別に怒ってないから、そんな顔しないで」と言われ、俺はどれだけ焦った顔をしていたのだろうと思う
すると、俺の気を紛らわすためなのか、真澄が話を逸らしてくれた。話題は、試験が終わった後の、大きなイベントのこと。
「今年は体育祭別々だね」
そう言って少しぎこちなく微笑んでくれた真澄に、ひどく申し訳ない気持ちになった。
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bkm