誤算、伝染中 | ナノ
3



寝坊で遅刻したし、千歳に慰められるし朝からついてない。

結局俺は千歳と一緒に登校する羽目に。何も話してないけど。「今日の昼飯何にすっかな」、「知るか」、くらい。家のことはあれっきりなにも。


千歳は昔から深く干渉してきたりしないけど、干渉しなくてもなんとなくわかってしまうんだろう。勘がいいやつだから。

だからと言って、こちらが何も言わなくても何でもバレてしまうのは腹立たしい。どこまでバレてるのかもわかんないし。そりゃあ、侑くんの事があったことはわからないだろうけど、バレるのも時間の問題だ。

…侑くんは普通に学校に行ったんだろうか。俺はいつもの日課だったラインもお迎えもしなかったからどうだかわからない。


寝坊して良かったのか悪かったのか。


でももし、今日の朝、ラインで挨拶をしてそれで「おはよう」なんて挨拶が返ってきたら、

お迎えに行って侑くんが俺を待っていたら。


そんなの自惚れかもしれないけど、もしそうなっていたら俺は、俺は、きっとどうすればいいかわからなくて固まってしまうに違いない。顔を真っ赤にして。そして侑くんがまた「いい気味」と笑うのだ。

それとも侑くんはそれを狙ってて俺に告白したのかな。


俺はあの、侑くんの優しすぎる目を見ると心臓が切なくなるのが、嫌い。







「書記さm…、す、住吉先輩!お疲れ様です!」


放課後になり、憂鬱な気分で生徒会室に向かうと升谷がすでにいた。相変わらず俺を様付けで呼ぼうとするし、キラキラした目で見てくる。

侑くんはまだ来てないらしくて心底ホッとする。


「俺もいるけど」

「あっ、ああっ鴨池先輩も!お疲れ様です!」

「お疲れ様」


指摘はしたものの特に気にしてない様子の真澄。ブレザーをハンガーに掛けたと思ったら、はあ、とさっそくため息をついた。


「どうしたの?」

「ん?ほら、企画の締め切りが今週中だから急がなきゃって思って」

「あー…」


企画。次やるイベントのこと。
スポ大が六月頭にあるからそれの準備をしなきゃいけない。
つい最近、オリエンテーションがあったばっかなのに。なかなかイベントが多い学校だと思う。


「あの…企画って…?」


なんの話かわかっていない升谷がキョトンとした顔で俺に聞く。
1年はまだ何も知らないのかな


「六月にスポーツ大会あるのは知ってる?運動会」

「あ…、先生がそんな事言ってました」

「それの企画をね、しなきゃいけないんだよ俺らで。三週間後のスポ大」


やばいな、そう考えると予定キツキツじゃん。
競技種目も決めなきゃいけないし、出場者の名簿も作らなきゃいけないし、
時間が無い。これは真澄が徹夜コースだ!(他人事)


「クラスごとなんですか?」

「全体では赤組と白組に分かれてる。去年は一応クラスごとに分けてて偶数組が赤で、奇数組が白だった。どう分けるかも考えなきゃ・・・」


真澄がすでに憂鬱そうな顔をしてる。
去年と同じ分け方でもいいと思うけど、差が出来ちゃう可能性もあるからなぁ。
特に今年なんて、生徒会3年が一緒のクラスにいるから。偏りが激しくなる。

うーん、面倒くさい。


「なになにぃ?なんの話〜?」

「…あ。有岡さん、お疲れ様です。」


声の方を向くと、有岡さんがいた。真澄の挨拶に続いて俺と升谷も挨拶をする。
「やっほ〜」と手を振ってくれる有岡さん。そして、その隣からひょっこりと小鳥遊が顔を出した。


「皆さんお疲れ様でーす」

「…なんか珍しい組み合わせですね」


ハイテンション二人組。髪の色もハイテンションだし。


「そこで会ったぁ。」

「何故か有岡さんのファンの人たちに睨まれたんですけど、俺ってそんなに節操なしに見えます?」

「知らないよ。」


なんで俺に聞くんだよ。
まあでも、有岡さんのとこの人は千歳にですら睨みきかせるからな。

当たり前のように俺の隣に腰かける小鳥遊。
そして、「あ、」と何かを思い出したかのように俺に笑いかけた。


「侑介はもう少ししたら来ると思いますよ」


たぶん、小鳥遊なりの気遣いなのだろう。俺が喜ぶと思って言った事。
けれど今の俺からは動揺しか生まれない。

ゆっ・・・!


「へ、へえ〜〜、そう!」


動揺してめっちゃ声がデカくなった。しかも「へえ、そう」って。
俺の変なリアクションぶりに目をパチクリしてる小鳥遊。頭にクエスチョンマークを浮かべて笑ったまま固まっている。

その反応を見て『間違えた』と頬が引き攣った。


「で、何の話してたのぉ?」


有岡さんがいい感じに話をぶった切ってくれた。
俺はそれにホッとしながら小鳥遊から、目を逸らす。


「スポ大についてです!」

「あ〜、スポ大かぁ、もうやんなきゃだよねえ。つか声デカぁ」


えっ、声デカかったかな。
咄嗟に口元に手を置く。チラ、と真澄を見てみると真澄も俺を見ていた。

そんな声張ってた俺?


「間に合うかなぁ?」

「…まあ今年は使える駒が3人もいるのでどうにかなると思いますけど」

「駒って俺らの事ですか〜真澄さぁーん」

「そうだよ」

「ぼ、僕も、頑張ります!」


1年が真澄とキャッキャしてる(違う)間、俺は隠れてふうー、と息を吐く。

ゆ、侑くんが、もう少しで来る。
小鳥遊の言うもう少しってどんくらいだ?5分?10分?

てかさっき3人だけだった時に升谷にこっそり侑くんの事聞いておけばよかった。侑くん、休みの間どんな感じだったんだろう。升谷に聞くってのもなんか癪だけど。でも休みのことは、升谷しか知らないし。

おまけに生徒会まで一緒ってなると…。
升谷と侑君は、かなり、一緒に居る時間が長いという事で。


む、
むむむ・・・


「あ、あの…住吉先輩…?」


いつの間に俺は升谷をガン見していたらしい。
おどおどしながら、升谷が頬を染め俺を見る。

黒髪で、少し長めの髪をしてる升谷。
目もくりくりしていて正直、まあ、可愛い。

侑君はこの子と、毎晩一緒にいるんだもんなぁ…。


普通はどう思うんだろう。
升谷相手だと、普通の男はどうなんの。

やっぱ侑君も、升谷かわいいとか思ったりするのかな。



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bkm