2
休みが明けた。5日ぶりの学校。
そして俺は、初っ端から寝坊した。
最、悪。
「ごめん、先に行ってて」
寝坊した日に限って寝癖がすごいことになっている。鏡を見て、自分の髪の悲惨さにイライラしながら真澄に先に学校を行くよう促した。
ネクタイを締めながら洗面所に顔を出す真澄
「どうしたの珍しいね」
「ちょっと、眠れなくて…」
昨日。
明日からまた学校が始まると思ったらなんか緊張して眠れなかった。
元々休み中に少しずつ夜型になってしまっていて、夜寝るのが遅かったというのもあるが。
今日の朝、真澄は何回も俺に声を掛けたらしいけれど全く起きなかったらしい。
最終的に頬をパチパチと叩かれて起きた。起きたら目の前に真澄の顔があってめちゃくちゃびっくりした。
「最近夜更かしばっかりしてたもんね。」
「んー…家に戻ってた時に、体内時計がちょっとずれた」
あの日の夜。
あれが全ての原因。
侑くんの顔が出てくる前に慌てて水を頭から被る。寝癖直しにしては雑すぎだな。
「うわ、なにしてるの」
案の定、真澄が俺の様子を見てびっくりした様だった。
「ね、寝癖直し?」
「そんな思いっきり被らなくても…」
呆れながら俺の頭にタオルを乗せる真澄。
思い出すまいと身体が咄嗟に。
あの夜の頃は永久に封じ込めておくしかない。
そうじゃないと、俺は今後学校で、侑くんにどんな顔をすればいいかわからない。
ーーー
「げ」
遅刻か間に合うか、というギリギリの時間にエレベーターに乗り込んだら、俺と同じくギリギリに部屋を出たらしい男がいた。
ミルクティー色の髪を遊ばせ、眠いのか完全に気を抜いてたのか、壁に寄り掛かって怠そうに立ってる男。
声をあげた俺に視線を寄越したと思ったら、また壁に視線を戻した。
「なんだその嬉しそうな声」
「耳鼻科行け」
千歳の皮肉にイラッとしながら『閉』のボタンを押す。こいつも寝坊したのかな。どうでもいいけど。
シーンとするエレベーター内。
けれど先に沈黙を破ったのは千歳だった。
「お前実家行ってきたんだって?」
「えっ」
な、なんでそれを…
「真澄から聞いた。家は相変わらず?」
千歳の言う『相変わらず』と言うのはどう言う意味で聞いてるのか。
振り向いて千歳を見上げてみると、千歳も俺を見下ろしていた。無表情。いつもの千歳の顔。
「…相変わらずだよ。俺はお母さんに嫌われてるし、お父さんは俺に優しい。…いつもと変わらない。」
自然と声が小さくなった。
千歳は俺の回答に「ふーん」と短く相槌を打つだけ。聞いといてなんだよ。
階に到着してエレベーターのドアが開いたから降りる。ん?待てよ。これ学校までこいつと一緒に登校かよ。それは嫌だから置いてこう。遅刻するし。
「ぐえっ」
とか思って、千歳を置いて早足で歩き始めたら後ろから襟を引っ張られた
カエルみたいな声が出て、その苦しさに咳き込む
「置いてくなよ」
「だからって襟掴むな!つかなんで一緒に行かなきゃーー…!」
千歳の手首を掴もうとしたら、手を移動され頭をわしゃわしゃとされた。乱れる髪。揺れる頭。
「ねえ、なに、なんなの」
ボサボサになった頭をどうにか手櫛で戻しながら千歳を見る。なんで俺頭撫でられたし。
嫌がってる俺を見て笑っているらしい。目元が微かに緩んでる。
なんだこのやろう。
「頑張ったな」
「え?」
「お疲れ。」
千歳の口からまさかの言葉。
俺は思わず目を見開いて千歳を凝視する。
なんだよ、『頑張ったな』って。
何も俺頑張るような事してないし。
むしろ俺自身が望んで家に帰ったんだし。ただただ、お父さんに会いたくて。
なのに、なんだよ。
「…別に。」
なんでこんな、
兄貴面してんのこいつ。
お疲れ、とか言っちゃってさ。
なんか、恥ずかしくてあからさまに顔を背けてしまった。
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bkm