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襲撃


太陽が沈み、暗くなった並盛を月が照らす。時刻は21時。車の通りが少なく静か住宅街では不釣り合いな音が轟いていた。


「うっ。ぐはっ」


呻き声を上げた男は勢いよく地面に平伏した。そんな男は見下ろすように、佇んでいる影が二つ。


「よえーよえー。風紀委員、恐るるに足らーず」


まるでこの状況を愉しんでいるかのように一つの影は高らかに笑う。そんな彼は顔全体が腫れ上がり、身体の所々に傷がある風紀委員は恐怖の対象として震えながら見つめ、「貴様ら…何者だ…」と問うた。


「んあー?遠征試合にやって来た隣町ボーイズ?」
「それつまんないよ。早く済ましてよ、犬」


今まで声を発しなかったもう一つの影が淡々と言葉を紡ぎ“犬”と呼んだ男に次の行動を促す。すると犬という男は「こいつ何本だっけか?」と意味不明な発言をする。しかし、その右手にはペンチが握られており風紀委員は次に何をされるかを察知して、ぶるりと身体を震わせた。


「ちょっくら頂いていくびょーーん!恨まないでね〜。上の命令だから」


と言い放ち、犬は風紀委員の髪を引っ張りぐいっと顔を浮かせた。何の躊躇いも無く、近づいてくるペンチに風紀委員は「待て!や…やめ…!」と声を出すのもキツイ中、振り絞るようにして抵抗の声を漏らす。しかし、無情にも行為を行われ風紀委員の悲鳴が住宅街に大きく響き渡った。



▽ ▲ ▽



暗くて冷たくて寂しい場所。現在よりも幾分か小さな舞はポツンと身を小さくして腰を下ろしていた。その肩は僅かばかりに震えており、溢れそうな涙を唇を噛み締めて我慢していた。


「っ、おじいちゃん…ディーノ…」


呼んでも大好きな彼らは来ない。此処は彼らのいる地からはとても遠く、声なんて届かない。そんなことは理解している。でも、寂しくて堪らないのだ。それでもこうなったのは自分への罰だから。自分は優しくて大好きな人達を裏切った戒められる人間だから。仕方がない、と自分に言い聞かせ瞳をギュッと閉じた。目の前の現実に目を背け、幸せな夢にただ、浸りたかったから。それが只の幻想だとしても。



目覚まし時計の音が耳に響き、舞は緩慢に瞳を開いた。朝だというのに、スッキリとした感覚は無く身体全身が重いように感じられた。重い瞼を擦るとそこは湿っている。どうやら泣いていたようだ。


「……あの夢。最近、良く見るな」


ボソリと小さく呟いた言葉。あの夢とは先程までに舞が見ていたものだ。小さく暗い空間で一人、孤独と寂しさで涙する夢。というよりも過去の自分の姿だ。どうせ夢なのだから現実とかけ離れた楽しい夢でも見たいものだが、大人ランボから未来を聞いたあの日から、今みたいな夢しか見なれなくなってしまった。


「夢でさえ…幸せにしてくれないんだ」


思わず自嘲気味に笑う。だって嘆いたところで無意味だと自分は知りえてるから。もうこれ以上考えるのはよそう。舞は布団から出て、学校へ行く支度を始めた。


ーー…1時間後。


朝食も済ませ、制服にも着替えた。お昼のお弁当も作ったし、後はもう家を出るだけだ。鏡の前で前髪のチェックをしていると、「ピンポーン」とインターホンが鳴った。こんな時間に誰だろう…と舞は首を傾げるが再度、音が鳴ったで彼女は慌てて玄関へと向かった。


「(朝なのに誰…?)」


舞は念のために、ドアスコープを覗いて誰が来たのかを確認する。しかし、視界には誰一人映らなく不思議に思った舞は鍵を開けた。玄関を出て、辺りをキョロキョロと見渡すがやはり誰もいない。悪戯だろうか、と息をふぅ…と吐き彼女は家の中に入ろうと踵を返した。


「……!」


だが、その刹那…舞に強烈な頭痛が襲い、あまりの痛さに顔を歪めプツン…と意識を飛ばした。そのため彼女の身体は力無く倒れていく。しかし床に平伏すことはなく、ふわりと優しく受け止められた。受け止めた男は純真無垢な彼女の表情を見て、クフフフ…と妖しく笑う。


「貴女には、ボンゴレの殲滅に手を貸して頂きます」



▽ ▲ ▽



残暑がまだ続く並盛には不吉な噂が出回っていた。なんでも土日に並盛中の風紀委員8人が重傷で発見されたという話だ。しかも、やられた人は歯を抜かれてしまうらしい。この非日常的な出来事を奈々から聞いたツナは恐怖で震え上がった。


「風紀委員だ!!あそこにも…!」


あの事件の所為なのか、ツナがリボーンと共に学校へ向かうと至る所に風紀委員が配置されていていることに気づいた。その風紀委員達は神妙な顔持ちをしており、何処か張り詰めたような空気を纏っていた。ツナは眉尻を下げながらボソリと呟く。


「やっぱ不良同士の喧嘩なのかな…」
「違うよ」


直様にツナの言葉に否定をする声が飛び、ツナは後ろと振り返り「雲雀さん!」と事件に巻き込まれつつある風紀委員の頂点に立つ男の名前を呼んだ。


「ちゃおっス」
「いや…僕は通学してるだけでして…」
「身に覚えない悪戯だよ…。もちろん、降りかかる火の粉は元から絶つけどね」


元々つり上がっている目を更にキッとさせる雲雀からは此方の身体が硬直してしまう程の殺気が漂い、ツナは「やっぱ雲雀さんこえーっ」と顔を青ざめさせた。その時、何処からか聞き覚えのあるメロディが流れた。これは、うちの校歌だ…とツナは辺りを見渡す。だが雲雀が耳に携帯を傾けた所で音は途切れた。


「(雲雀さんの着うたー!!?)」


流石、並盛中を愛して止まない雲雀だ。校歌を着うたにしていたことにツナは愕然としたが、雲雀が電話をしているのでもう立ち去ろうと「じゃあ失礼します」と頭をペコっと下げた。


「君の知り合いじゃなかったっけ?」
「!」


歩み始めたツナであったが、雲雀の一言が気になりその場で止まって振り返る。


「笹川了平……やられたよ」


それを聞いてツナは全身が凍らされたように冷たくなっていくような気がした。少しずつ、少しずつ、いつもの慣れてきた日常がまた狂っていく。もしかしたら、これが新たな物語への序章なのかもしれない。



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