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「いい物件あってよかったね。家賃折半したら一万ちょっとは今より安くなるし」

「俺はまだなんか全然実感わかないっす」


 竹下さんと一緒に住むってなんだよ。数ヶ月前まで存在も知られてなかったのに、付き合って、一緒に住むって、親に挨拶? 気持ちとしてはそりゃ嬉しいが大勝利だけど、頭がついて行かない。こうして竹下さんの車に乗っているだけで心臓が忙しないってのに、竹下さんと一緒に住むとか、血圧上がっちゃうよ!


「俺も実感はまだないなぁ。引っ越しが済んで、寝起きのれおを見たら実感するかもね」

「……寝起き」


 の竹下さんを想像……できない! 三木さんの家に泊まらせていただいた時も、俺ん家に泊まった時も、竹下さんは朝からパーフェクト竹下さんだったし。寝ぼけたりとか、するのかな?


「まぁ、寝顔も寝起きも何度か見てるけどね」

「お、俺だけ……そんな姿を見せてるんすね……」

「俺の寝顔は見たでしょ?」

「寝顔は、そりゃ見ましたよ。めちゃくちゃ見ましたけど、目を瞑ってるだけで綺麗な寝顔っすよ。いびきもかかないし、口開いてたりもしないし、死んでるのかと思うくらいで」

「そうらしいね」


 竹下さんの『そうらしいね』にしっかりと反応してしまう自分に嫌気がさす。誰かが眠っている竹下さんを見て、その誰かからその様子を聞いている。俺に竹下さんの過去に嫉妬する資格なんてないのに。


「睡眠浅いし、すぐ起きちゃうんだよね。朝が来る前に目が覚めることの方が多いかな」

「そう、なんすね……」

「……元気無いね? 俺なんか変なこと言ったかな?」

「いや、俺が勝手に……ちょっと考えちゃって……」


 ああ、竹下さんに気を使わせてしまってる。なんでこうなんだろ。さっきまで楽しく話せてたのに。勝手に嫉妬して、落ち込んで、気にしてくださいって言ってるようなもんじゃないか。こんな自分が嫌になるのに、いつも俺ってこうだ。


「……あー……、言わなくていいこと言っちゃったね。ごめんね、気が回らなくて」

「ちがっ! 謝らないでください! 俺が悪いっす。すいませんっす」

「れおは何も悪くないよ。俺がれおの立場だったら嫌な気持ちになるし、すげー嫉妬すると思う。俺が配慮するべきだったんだ。ほんと、ごめん」

「竹下さん……」

「でも俺ってまじで最低なんだけど、れおが嫉妬してくれるの嬉しかったりもするんだ。俺のこと独占したいって思ってくれてることが実感できてさ。れおには嫌な気持ちさせちゃってるのに、こんなこと思ってごめんね」


 優しく微笑んで謝ってくれる竹下さん。俺が気にしないようにしてくれてる。いつもその優しさに甘えてしまって、ごめんなさい。


「でもさ、一個だけ信じて欲しいんだけど……俺が好きだって思ったのはれおだけだよ。過去は変えれないけど、これからはもうずっとれおだけだから」


 竹下さんが運転中じゃなかったら、飛びつきたくなるような嬉しい言葉。運転中じゃなくても飛びついたりは恐れ多くてできないけど、でも、すごく嬉しい。


「俺も、ずっと竹下さんだけっす」


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