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 自宅マンションの来客用駐車場に車を停めて、竹下さんがフーっと長い息を吐いた。


「……緊張する」

「そ、そっすよね。なんか、普通だったからそうでもないのかと思ってたっすけど……」

「れおのご両親に気に入ってもらえなかったらどうしようって、もうずっとグルグル考えちゃってるよ」

「それは、ないと思うんすけど」

「……とにかく、行こう。約束の時間に遅れちゃうし」


 母さんが指定してきた時間は午後3時。碧央の迎えまでに少し場を温めておこうということだろうか? 碧央も家に帰ったらいきなり知らない人がいるとびっくりするだろうし、母さんとも少しは打ち解けてた方が碧央も接しやすいだろう。
 自宅なので当然鍵を持っているが、使わずにインターホンを鳴らした。お客さんを連れていきなり入っていくのも憚られる。竹下さんと一緒だからか、自分の生まれ育った家なのに緊張する。俺がしっかりしなきゃ! 竹下さんはもっと緊張してるだろうし!


「はーい! おかえりー、怜央。竹下くんも、今日は遠くまでわざわざありがとうね」

「とんでもないです。お会いできて嬉しいです」


 すごい普段通りの母さんが出てきた。竹下さんもにこやかに挨拶してるし、すごいなー、大人だなーと思う俺って本当ガキ。
 母さんに促されてリビングのソファに座る。竹下さんは挨拶やお土産を渡したりと如才なく振る舞って、母さんも大学での俺の様子を訊ねたり、会話は途切れることもなく和やかな雰囲気だった。

 そんな時、玄関のドアが開いた音がして『ただいまー!』と碧央の元気な声が響いた。


「おかえりー、碧央」


 と、母さんが碧央を抱き上げる。そしてものすごくナチュラルに碧央のリュックや帽子を決まった場所に置く那央に俺と竹下さんの視線が集中した。


「久しぶり、怜央も竹下さんも」

「えっ、なんで那央がお迎え行ってんの?」

「私が頼んだの。今日は竹下くんが来てくれるからって。ていうかよく行ってもらってるの」

「……へ、へぇー」


 なんだろう、この複雑な気持ちは。
 母さんに抱かれていた碧央が『れおくーん』と可愛く俺に両手を伸ばし、可愛い妹が俺の腕の中にいてもなんとなく複雑な気持ちが無くならない。


「おにいちゃん、だれ?」


 碧央が竹下さんにそう尋ねた。竹下さんはふんわりと優しい笑みを浮かべて『れおくんのお友達だよ』と答えた。それはもう複雑な気持ちとかどうでもよくなるほど破壊力抜群だった。


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