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ダイゴさんが旅に出て2年。
私もトレーナーズスクールを卒業し、今日からポケモントレーナーとして旅に出る。
トレーナーズカードを発行してもらった直後に、1つ目のジムが自分の住んでいる街にあるのをいいことに、ロコンとダンバルの2匹でごり押しし、1つ目のバッジ、ストーンバッジを手に入れた。
タイプ相性的に2匹とも悪かったが、そこは昔から野生のポケモン、時にはトレーナー相手に勝負をしかけていたおかげで、何とか勝利をもぎ取ったのだ。
2つ目のジムを目指して、私はとうとう家を出て旅に出る。
ティアからリュックサックを受け取り、玄関まで見送りに来てくれた両親とティアに挨拶をする。
「じゃあ行ってくる。頑張ってくるよ」
そう言ってリュックサックを背負いなおせば、母親は嬉しそうに、父親は寂しそうに顔をゆがめていた。
ティアも、昨日まで寂しいと言っていたが、今は嘘のように優しい笑顔だ。
「行ってらっしゃい。エリシアが納得のいくまで旅を続けてらっしゃい」
「ううう…っ。辛くなったら、いつでも帰って来るんだぞ」
両親の見送りの対応の両極端さに苦笑し、ティアに顔を向ける。
「行ってくるわ。留守の間、よろしくね」
「行ってらっしゃいませ、お嬢様。お帰りをお待ちしております」
丁寧に頭まで下げる彼女に笑い、それじゃあと3人に背を向けて歩き出す。
「…絶対にあの人に勝つんだから。…一緒に頑張ろうね」
腰につけている2つのモンスターボールを撫で、私はカナズミシティを後にする。
さあ、冒険の始まりだ!
* * *
「…とは言っても、」
元気よくカナズミシティを出発したのはいいが、私にはなみのりを使えるポケモンはいないし、
次のジムがあるムロタウンまで、どう行けばいいのか…。
とりあえずと海辺まで来たが途方にくれていたところ、キャモメを連れた1人のおじいさんが話しかけてきた。
「どうしたお嬢さん、こんなところで」
迷子にでもなったのかと尋ねられたため首を横に振って否定し、ムロタウンへ行きたいのだと伝えた。
「なんと、ムロタウンに…!ということはお嬢さん、さてはポケモントレーナーじゃな?」
「はい。2つ目のジム、ムロジムに挑戦したくて…」
目的も話せば、おじいさんは笑顔で頷き、嬉しい提案をしてくれた。
「もし良ければ、私の船に乗りなさい。なに、こう見えても昔は船乗りだったんじゃよ」
「本当ですか!?」
「本当だとも。帰りのムロジムからこの場所まで乗せるとも」
これは嬉しい提案だ。
私は二つ返事で了承し、キャモメとおじいさんと一緒に船へ乗り込み、ムロタウンへと向かった。
* * *
「気を付けて行ってきなさい」
「…あ、ありがとうございます。いってきます」
そう時間もかからずにムロタウンに着き、私は船を降りてとりあえずとポケモンセンターへ向かう。
…その足取りは若干、ふらついてはいるが。
酔った。運転荒くて若干酔った。
船乗りってあれかな。スピード出す方の船乗りだったのかなおじいさん。
若干の気持ち悪さを感じつつも、ジョーイさんにロコンとダンバルを回復してもらい、足早にムロジムへ向かう。
ジムへ立ち入れば、入口にいた男性に挑戦者か尋ねられ頷けば、ムロジムについての説明を受ける。
「ムロジムはかくとうタイプのジム。そしてこのジムは、見ての通り通路が暗い。トレーナーを倒していくごとに、明るくなるエリアが増えていくぞ」
彼の言葉に、たしかにと頷きながら辺りを見回す。
真ん中の通路だけは照明で照らされてはいるが、きっと真ん中を進むだけではジムリーダーのもとへは辿り着けないんだろう。
なら左右に道があって、そこを進んでいくのか。
理解できたか尋ねられたため頷き、じゃあ行ってこいと背中を軽く押される。
「きばってこい、挑戦者!」
「はい!」
力強く頷き、まずは左右に道があるのか確認して、左の暗い道を進む。
手探りで進んでいれば急に照明がつき、数歩先にジムトレーナーがいた。
「あたしを甘くみないことね!泣いても知らないわよ!」
彼女は高らかに叫ぶと同時にモンスターボールからアサナンを繰り出し、
私も応えるようにロコンを出す。
「がんばって、ロコン!」
アサナンとロコンの戦闘はそれほど時間もかからず勝利し、このままいけばジムリーダーにも勝てると確信した。
負けた彼女はしょんぼりと肩を落としながら賞金を渡してくれる。
「暗闇の中で戦うことで、心を鍛えるの。でも真っ暗だから、ジムリーダーのお顔を見られない…」
「あー…。そこはどうしようもないところですね」
苦笑して言葉を返し、そそくさと先に進んだ。
その後も暗闇を進んだと思ったらジムトレーナーが現れバトルになり、難なく勝利を掴み取っていく。
そして大きな広間に出たところで、やっとジムリーダーっぽい人が現れた。
1つ目のジムでも思ったけど、やっぱりゲームとはジムリーダーが違うんだよなぁ。
ダイゴさんがまだチャンピオンじゃない時間軸だから仕方ないけど。
…あ、でも、テッセンさんは同じかもしれない。
「来たね挑戦者。さあ戦おう!僕のポケモンたちの拳を受け止められるかな!」
「負けません…!」
お互いモンスターボールをフィールドに投げ、バトルが開始する。
ここで負けてちゃ、彼には勝てない…!!
* * *
「おぉ、早かったね。どうじゃったかな」
船着き場で待ってくれているおじいさんの下へ駆け寄り、2つ目のジムバッジを見せれば、嬉しそうに笑った。
「良かったのう」
「ありがとうございました。おじいさんがいなかったら、どうやってムロタウンまで来ようか、途方に暮れてました」
「いいんじゃよ。ささ、船に乗りなさい。104番道路へ戻ろうか」
「ありがとうございます!」
船に乗り込み、行きと同じ荒い運転で104番道路へと向かう。
ムロジムのジムリーダーには、あまり苦労せずに勝てた、というのが本音だ。
ちょっとダンバルとロコンを鍛えすぎたのかもしれない。
…ちょっと、マクノシタのビルドアップには恐怖したけど。ほのおタイプの技効きにくかったし。
小さくなっていくムロタウンを見ながら、そういえばとふと思い出す。
ムクゲ社長からダンバルを頂いたときに聞いた、ダイゴさんのことを。
…ムロタウンの北にある石の洞窟で、暫く探検してたんだっけ。
私も行けば良かったかなぁ。
石の洞窟に思いを馳せたが、おじいさんを待たせるわけにはいかないからと雑念を払うように首を振る。
もう少しで104番道路というところで、少し離れた岩場で、異様に水が跳ねているのが気になった。
目を凝らして見れば、どうやら1匹のポケモンに、違う種類の数匹のポケモンたちが群がっていじめているらしかった。
「おじいさん、あの岩場に近づけますか?」
おじいさんに声をかければ、彼も状況が掴めたらしく、舵をきって方向転換してくれた。
ロコンは無理だからとダンバルを出し、無理のない範囲でいじめているポケモンたちに向かってとっしんするよう指示を出せば、ダンバルは頷いて勢いよくポケモンたちへ突っ込んで行く。
それを何度か繰り返し、私たちが岩場へ辿り着くころには、いじめていたポケモンたちはどこかへ散っていた。
岩のそばで小さくなって怯えているポケモンに目線をやれば、私は驚きで目を見開く。
「え、ヒンバス…!?なんでこんなところに…」
そう。いじめられていたポケモンはヒンバスだった。
なるほど、たしかにヒンバスは見目があまり良くなく、たしかトレーナーたちの間でもあまり好評ではない。
しかし、ヒンバスのその先を知っている私からしてみれば、喉から手が出るほどに欲しいポケモンだった。
未だ怯えながらこちらを見ているヒンバスに、空のモンスターボールを差し出す。
「ねえ、私と一緒に行かない?」
「お嬢さん…!?そんな見目の悪いポケモンなぞ…!」
隣でおじいさんが止めてきたが、それに構うことなく目の前のヒンバスを見つめていれば、ヒンバスは恐る恐るモンスターボールに入り、やがて振動が止まった。
「よろしくね」
良かったー。ヒンバスどうやって見つけようか悩んでたんだよねー。
ヒンバスが入ったモンスターボールをほくほくと見ていれば、おじいさんが訝し気に私を見て、何がそんなに嬉しいのか尋ねてきた。
「そんな見目の悪いポケモンをゲットせずとも、お嬢さんには他にいるじゃろうて」
「それは違いますよ。おじいさん、知ってますか?ヒンバスが成長したら、それはそれは綺麗な姿になるんですよ。旅に出たときから、ヒンバスをゲットしようって思ってたんです」
ダンバルも、ありがとう。といじめていたポケモンたちを散らせてくれたダンバルをボールに戻し、おじいさんに104番道路へ向かってもらう。
「そのポケモンがのう…、綺麗にのう…」
別れる最後まで、結局おじいさんは私の言葉を信用してはくれなかった。
…ヒンバスが進化したら見せびらかしに来よう。絶対来よう。
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