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あの顔合わせから3ヶ月経った。
あの日から日を開けずに私の家に来たダイゴさんは、約束通り石の話をしてくれた。

話し方といい内容といい、どんどん引き込まれていった私は、少し石に対して興味が湧き、道に転がっている小さな石にも目をやるようになった。
その話をすれば、ダイゴさんは本当に嬉しそうに笑い、石の図鑑を取り出して私に差し出した。

「僕はもう全て覚えてしまったから、エリシアちゃんさえ良ければ貰ってくれないかな」

婚約者にお古とはいえ、物を差し出されたら断れるはずもなく、二つ返事で受け取る。
後ろにいるティアが顔を引きつらせていたことは、見なかったことにしておこう。

図鑑を受け取った私に満足そうに頷いた彼は、もう夕方だからと帰路についた。
彼を玄関まで見送り部屋に戻って来れば、ティアがため息をついた。

「女性であり婚約者であるお嬢様に、初めてプレゼントした物が石の図鑑って…どうなんですか………」

肩を落としたティアに笑い、私は腕の中の図鑑を撫でる。

「私は"彼らしい"と思ったわ。花束やアクセサリーを貰うより、よっぽど信頼できる人だと感じた」

「お嬢様がそれで良いなら良いですけど…」

不満げなティアに苦笑し、早速とページを開いて絵や文章でわかりやすく説明されている石たちを見ていく。

同じものを彼も見ていたと考えるだけで嬉しくなり、つい毎日、気が向けば図鑑を開いてしまう。
そして毎日眺めていれば、当然の如く石の知識が深まり、次にダイゴさんと会ったときにはそのことについて喜ばれる。

そのことが何度か続いたある日、いつものように私の家に遊びに来たダイゴさんが、私の腕の中にある図鑑と私を見比べ、嬉しそうに、けれどもどこか辛そうに話す。

「エリシアちゃんが婚約者で良かったよ。他の女性は、あまり石に興味が無いようで、"そんな趣味なんてやめてしまえ"と、何度も言われたんだ」

再び、私が婚約者で良かったと言う彼に、私は言葉を紡ぐ。

「どんな理由であれ、他人の趣味をどうこうする権利は本人にはありません。あるのは同調するか、やんわりと避けるかのみだと、私は思います」

自分の考えを伝えれば、彼は驚いたように目を見開き、次いで笑顔になる。

「うん、僕もエリシアちゃんの考えに賛成だ。…そうだ!」

僕ばかり趣味のことを話すのは申し訳ないからと、私の趣味を尋ねてきた。

「初めて会った時も聞いたけれど、改めて聞かせてほしい。エリシアちゃんは、どんな趣味があるんだい?」

「そうですねぇ…」

ゆっくり考えてくれと言われてしまい、真面目に考える。
最近は洋服のデザインを考えたりすることは楽しいこと。テレビで見たポケモンバトルやポケモンコンテストなどに興味を持ち、自分も挑戦してみたいと思っていること。
言葉がまとまらないまま伝えれば、彼は目を閉じて何度か頷き、顔を上げて私を見た。

「洋服のデザインやポケモンコンテストを協力することは、僕にはセンスが無くて難しいけれど、ポケモンバトルなら教えられるよ」

「本当ですか!?」

彼の申し出に驚き、つい図鑑を持っている手に力を込めてしまった。
彼は私の食いつき様に笑い、スクールで教わっている知識についていくつか質問してきた。

「トレーナーズスクールで教わっている、ポケモンのタイプ相性はバッチリかな」

「もちろんです」

「ポケモンの技による気候変動や状態変化、それによる回復薬も?」

「もちろんです」

知識だけはあるぞと力強く頷けば、彼は嬉しそうに笑い、私の頭を撫でて席を立った。

「今日はこれで失礼するよ。次会うときは、僕とポケモンバトルをしよう」

「本当ですか!?」

約束ですよと詰め寄れば、彼はもちろんだと頷く。

「僕の家に練習用のバトルスタジアムがある。次会うときは僕の家までご足労いただくことになるけれど…「かまいません!」…そうか、良かったよ」

また都合の良い日を伝えるよと言い残し、彼は帰路につく。
いつものように見送って部屋に戻れば、ロコンを抱き上げて喜ぶ。

「ロコン!やっと、あなたとパートナーとしてバトルができるわ!」

待たせてしまって申し訳ないと謝れば、気にするなと返事を返され、ティアに声をかける。

「バトルができるように、動きやすい洋服を決めましょう!」

「今からですか!?」

目を見開くティアに、いてもたってもいられないのだと伝えれば、ティアは顔を緩めながらも息を吐き、クローゼットを開けた。





「これなんてどう?」

「それスクールのジャージじゃないですか!そんな格好で婚約者に会わせられません!」

「きっと彼は気にしないわ」

「周りが気にします!!!」

その後、クローゼットにある洋服ではダメだと後日街へ繰り出し、納得のいくコーディネートが出来上がった。
あまり時間もたたずダイゴさんからバトルへのお誘いがあったため、彼の候補日の中でも最短の日を選び、返事をした。

「楽しみね、ロコン」

「キュー!」

前の世界からやってみたかったポケモンバトル。
タイプ相性的にも経験的にも、彼に勝てるとは1ミリも思ってないが、やはり楽しみなのは楽しみだ。

その日からそわそわと、何をしていても浮つく日がバトル当日まで続いた。

 

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