022/62
言い忘れていたが、私には前世の記憶がある。
前の人生では日本で暮らし、私のパートナーであるロコンなどのポケモンは架空の世界として描かれていた。所謂転生トリップだ。
確かに前の私は事故で死んだ。しかし、気がつけば今の両親のもとに生まれ、新しい人生を歩んでいる。
ロコンは両親からプレゼントされたようで、物心ついたときには隣に彼がいた。
ここホウエン地方では珍しいポケモンであるロコンだが、昔私たち一家はカントー地方にいたようで、両親のポケモンたちもカントー地方に生息している種族ばかりだ。たしかにカントー地方であればロコンは珍しくはない。
「(…そういえば、前の世界で自分だったらどんなパーティを組むか考えて、ポケモンセンターでぬいぐるみ買って並べてたっけ)」
懐かしい。と昔を振り返りながら小さく笑えば向かいに座っているダイゴさんに不思議そうに見られ、なんでもないと返す。
いけないいけない。
今は噂の婚約者、ツワブキダイゴとの顔合わせだっけ。
私の目の前には婚約者の彼、未来のホウエン地方チャンピオンにしてデボン・コーポレーションの副社長であるツワブキダイゴがいる。
彼はお世辞にも年相応とは言えない、子供にしては落ち着きすぎている表情と立ち居振る舞いで、彼からしたらまだ幼すぎるであろう私と話していた。
「エリシアちゃんは、何か好きなことはある?」
いかにも外行きの笑顔で話す彼に違和感を感じつつも、それを顔に出さずに答える。
「…そうですね。あまり外で遊ぶこともできませんし、パートナーであるロコンと戯れることが好きです」
少し考えつつ答えを出し、逆に彼に同じ質問をすれば、目を輝かせて石について話し出す。
「なんと言っても、僕は石が大好きでね。石は大小様々あって……、」
ここから、彼の話が約1時間ほど続くとは、この場にいる誰もが思ってもなかっただろう。
彼が我を取り返したときには、横に座っている彼の父親と母親は唖然としていた。かくいう、私の父も母も、後ろにいるティアも唖然としている。
彼は周りを見渡し、申し訳なさそうに慌てて私に謝ってきた。
「ご、ごめんエリシアちゃん…!僕、石のこととなるとどうも周りが見えなくなってしまって…!」
申し訳ない。と頭を下げた彼に、だんだんと笑いがこみ上げてきて堪えきれず控えめに笑えば、彼は恐る恐る私を見た。
そんな彼に、安心するように微笑んで話す。
「自分の好きなことに対して熱く語れるのは素晴らしいことだと、私は思います。それに、私はダイゴさんのお話を聞いて、石に興味が湧きました」
今度、ダイゴさんが都合の良い時にでも、是非続きを聞きたいと伝えれば、彼は目を輝かせ、頬を少しだけ赤くし、勢いよく頷いた。
「是非!エリシアちゃんに楽しい話が出来るよう、もっと知識を深めてくるよ!」
「楽しみにしていますね」
これでどうだ100点満点の模範的回答だろうと思っていれば、本当にそうだったらしく、両者の両親、従者は安心したように息を吐き、お互いがお互いの子供を褒め合う。
まあ石に対して興味が湧いたのは嘘ではないしなと思いつつ、彼の話に耳を傾ける。
この少年、頭が良いだけに話し方も上手い。
自然と聞き入ってしまう話し方をする彼に苦笑し、不思議そうに首を傾げる彼になんでもないと首を横に振った。
話を聞けば、彼のパートナーはダンバルらしい。
将来はメタグロスになるんですね、わかります。
顔合わせの帰りには、すっかりダイゴさんに気に入られ、近いうちに私に会いに行くと言って去って行った。
周りでは両親、ティアが異様に喜んでおり不思議だったが、後日その理由が判明する。
「ツワブキダイゴ様は、容姿端麗、才色兼備、おまけにあのデボン・コーポレーションのご子息とあれば、周りの女性たちからの人気も高く、振り回されているようで…。あまり、女性を得意としてないんですよ」
なるほど。だから石について触れるまではあんなに取り繕ったような笑顔だったわけか。納得だ。
苦笑して話したティアだったが、その後は嬉しそうに言葉を紡いだ。
「でも、お嬢様と上手くいきそうで安心致しましたよ。あのデボン・コーポレーションのご子息とご結婚とあれば、将来も安泰ですね」
ティアの物言いに、仕方ないとは思いつつも、あまり気分が良いものではなかった。
「…別に、彼がどの生まれであろうと構わないわよ」
私の言葉に、ティアは素直に喜んでいいのか、大人として彼の会社がいかに素晴らしいか説明するべきか、何とも複雑そうな顔をしていた。
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