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「お嬢様、朝ですよ」
私の朝は、侍女であるティアの呼びかけと、パートナーであるロコンの呼びかけで始まる。
「……おはよう」
むくりと起きあがり、ロコンを撫でながらティアに今日の予定を聞く。
すると、当の本人すら忘れていた大事な予定を告げられた。
「今日は、来週のツワブキダイゴ様との顔合わせのために着る、お洋服を決める日ですよ」
「……あぁ、婚約者っていう、あの」
私の問いかけに頷いた彼女は、それはもう嬉しそうに顔を緩め、手を胸の前で組み話し出す。
「ツワブキダイゴ様といえば、あのデボン・コーポレーションのご子息様ですよ。端正なお顔立ちをされてますし、トレーナーズスクールでも成績トップのお方のようですよ!」
「へぇ」
「それにご自分の身の上を鼻にかけず、周りの方からの人望も非常に厚く、もう完璧なお方です」
「そう」
良かったねー、ロコン。将来は安泰だね。
ロコンを撫でながら言えば、ティアは目を吊り上げて怒った。
「お嬢様!お嬢様も立派なお家のお方であるならば、もう少し立ち居振る舞いを考えてくださいませ!」
「うんうん、わかってるよティア」
「いいえ!全くわかっておりません!!」
お嬢様も、あのダイゴ様の婚約者となるのですから……!等々、長々とティアからお小言を貰い、それが終われば朝の支度へと移る。
いつからだろうか。ティアが私にこうやって目を釣り上げてお小言を言うようになったのは。
最初は笑顔で話すことが多かったはずだが……と考えたが、ティアの"聞いてますかお嬢様!"の言葉に思考を中断させる。
朝の支度の最中も私にお小言を言ってくる彼女に、流石に朝から気分が下がり、髪を櫛でといてくれている彼女に向きなおる。
「ティア、私のことが気に入らないなら他の仕事をしてもいいんだよ」
目を見開いて固まった後、顔を青ざめた彼女に苦笑して首を横に振る。
「私は別にティアのことを怒ってもないし、ティアの言うことは最もだと思う。ただ、そこまで不満に思っている相手に仕えるのは、ティアがしんどいでしょう?」
お父様には私のわがままでティアを他の仕事に回すことを言ってティアに下がるようにと伝える。
彼女に背を向け歩き、クローゼットから着替えを自分で選んでいれば、ティアが謝罪の言葉と共に地面に手をついた。それを見て慌てて駆け寄る。
「お嬢様がお優しい方であることを理解し、言い返さないのを良いことに、あんな偉そうな物言いをしてしまい、申し訳ありませんでした」
「頭を上げてティア!私は一ミリも怒ってないのよ!ただ、嫌いな相手に仕えるのは、あなたがしんどいだろうと…「いいえお嬢様!!」」
膝をついてティアに呼びかけていれば、最後の言葉で食い気味に否定し、私と目を合わせた。
「私はお嬢様が大好きでございます。私が他のメイドからどんな嫌がらせを受けようともお側を離れなかったのは、お嬢様が大好きだからでございます」
今までの無礼をお許しください。と再び頭を下げたティアに何度も頷き、とりあえずと彼女を立たせる。
「本当にいいの?あなたなら他の家からだって…」
「私は、お嬢様から嫌われ、離れろと命令されるまで、お嬢様のお側におります」
いさせてください。と必死な顔でお願いされては、頷くしかなかった。
気を取り直して櫛で髪をといてもらいながら、私も彼女にお小言を言われない、立派な人間になってみせると、固く心に誓った。
それをティアに伝えれば、心の底から嬉しそうに笑った。
「お嬢様、今日はどんなお洋服にしましょうか」
「今日はたくさん着替えるだろうから、着替えやすい服がいいわね」
「かしこまりました」
その日からティアのお小言は減り、逆に私を褒める言葉がよく出るようになった。
私は私で、今まで以上に勉強に精を出し、少しでもティアにとって誇れる主人であるように努める。
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