とある日のできごと
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※とくに山なしオチなし。














「…あれ、ダイゴさんお弁当忘れてる」


洗濯物を干し終わってリビングに戻ってくると、テーブルの上にポツンと置かれているお弁当箱。
それは今朝、リーグへと出発するダイゴさんに渡したものだった。

ちらりと時計を見れば10時を指していた。
少し考えて、いそいそと着替えて出かける準備を整えお弁当箱をしっかりと鞄に入れて家を出る。

「チルタリス、リーグまで!」

「チルッ」

家の前でチルタリスをボールから出して、ふわふわな背中に乗って大空へと飛び立った。

チルタリスにつかまりながら、ポケナビでダイゴさんに電話をかける。

「あ、ダイゴさん。今大丈夫ですか?」

『電話なんて珍しいね。もちろん大丈夫だよ』

すぐに電話に出てくれたダイゴさんにひとつお礼を言って、早速と本題に入る。

「ダイゴさん、お弁当忘れてないですか?」

問いかければしばしの無言の後、電話の向こうでガタガタと物音が聞こえてきた。
鞄の中や心当たりの場所を探したのか、絶望したような呟きがぽつりと聞こえてくる。

『…………無い』

だろうなぁ。
私の手元にお弁当箱あるし。

苦笑して届けに行くことを伝えようとした瞬間、吹っ切れたような明るい声が聞こえた。



『よし、今日はもう帰ろう!』



ちょっと待て。


「ダイゴさん!?ちょっと待ってください!」

驚きでポケナビを落とすところだったが寸前で耐え、しっかりと持ち直して言葉をかけるも彼からは不思議そうに問いかけられた。

『何故だい?僕はエリシアのお弁当をお昼に食べることだけを楽しみにリーグに来たのに』

「いや仕事してくださいチャンピオン!!」

お弁当届けに行きますから!

ようやく電話をかけた目的の言葉を口から出せば、途端に嬉しそうな声をあげる彼。

『本当かい!?それは楽しみだね』

「だから仕事を放棄するのはやめてくださいね」

『仕方ないから、我慢してやることは終わらせるよ』

仕方ないからね。と念を押すように続く彼の言葉に苦笑して、今チルタリスで向かっていることと、ダイゴさんの執務室まで届けにいくことを伝えれば頷いてくれた。

『わかった。リーグの受付には話を通しておくよ』

「ありがとうございます。ちゃんとお仕事して待っててくださいね」

『ふふ、わかったよ』

電話を切ってため息をひとつ落とせば、落とさないようにポケナビをしっかりと鞄の中にしまった。
久しぶりのリーグに、ちょっとだけワクワクしてしまうのは仕方のないことだと思う。




*    *    *



「あ、エリシアさんだ」

リーグに到着し受付をして内部に入れば、廊下の向こう側から歩いてきた彼に名前を呼ばれた。
それに顔が歪んでいくのを理解しながらも、何とか言葉を絞り出した私は偉い。


「………こんにちは、ソニアさん。お久しぶりです」


「めちゃくちゃ嫌そう。逆に面白いね」

向こうから歩いてきたのは、ヒマワキシティのジムリーダーであるソニアさん。
初対面でバトルをした時の苛立ちが変に記憶にこびりつき、なかなか彼への苦手意識が消えない。

「リーグになにか用事かな?あ、ダイゴに会いに来たとか?」

彼、今朝も女性職員の誘いを笑顔で断ってたよ。

笑顔で悪気もなく言われ、だからこの人は苦手なんだと再認識する。

「だから私、ソニアさん苦手なんですね」

「え、そうなの!?」

「あ、声に出てました?」

すみませんと棒読みで言えば、彼はしょんぼりしたように肩を落とした。

「ショックだなぁ。こんなにダイゴとキミを応援してる人もなかなかいないよ?」

「"面白がってる"の間違いでは?」

「そうとも言うね!」

胸を張って答えた彼に苛立つも、なんとか堪える。
ため息をついて鞄を持ち直した。

「じゃあ私、ダイゴさんの執務室に行かないとなので」

「もう行くの?もう少し話していかない?」

副音声で「もっとリーグでのダイゴの様子を聞いて行けよ」と聞こえる。

本当に、この人にとって私とダイゴさんはからかいの対象らしい。
ソニアさんってこういう人だっけ?前はもう少しまともな人かと思ってたけど。

「すみませんが……「ソニア、エリシアは僕の婚約者だよ」」

ジト目でソニアさんを見て断りの言葉を言おうとすれば、第三者の介入で遮られた。
声が聞こえてきた方へと顔を向ければ、そこには苦笑しているダイゴさんの姿が。

ダイゴさんはソニアさんに言葉をかけると、つかつかとこちらに歩み寄って私の肩を掴み自身へと引き寄せた。

「キミが人のものに興味を持つなんて、知らなかったよ」

いつも通り笑顔だが、どこか吐き出す言葉は冷たい。
初めてみるダイゴさんの姿に目を見開けば、ソニアさんはやれやれと肩を落として私たちに背を向けた。

「惚気は聞き飽きてまーす。牽制も必要ないよ」

でもその顔面白いからちょーだい。

急にくるりと振り返った彼がポケナビで写真を撮ったと思えば、止める間もなく走って逃げていった。
しかも、

「みんなー!!!独占欲強めの婚約者が牽制してきたぞーーー!!」

と、リーグ全体に響き渡るような大きな声を上げながら。

















「………え、クズですね?」


我に返って思ったことを素直に吐き出せば、ダイゴさんは諦めたように深いため息をひとつ零した。

「ソニアは普段からあんな感じだよ。誰も彼の本心はわからないんだ」

本当に、鳥ポケモンみたいだよ。

苦笑するダイゴさんの言葉にすごく納得した。
飄々と自由なソニアさんだからこそ、自由に空を飛ぶ飛行タイプがとても合うのだろう。

「さて、お弁当を届けてくれてありがとう。助かったよ」

ついでにお茶でも飲んでいくといいとお誘いを受けた。
それに頷き、ダイゴさんの隣に並んで歩きだす。

「明日はゆっくりできそうなんだ。どこかデートにでも行こうか」

「良いですね。暫く行けてないですし、どこか石探しでも行きますか?」

「いいのかい?もっとエリシアが楽しめる場所でもいいんだよ」

「楽しそうにしているダイゴさんを見るのが、私は好きなんです」

笑って言えば少し恥ずかしそうにした彼だが、それでも嬉しそうに笑った。

「実は、最近行けてなかったから僕も探しに行きたかったんだよ」

「決まりですね。日帰りにはなりますが、海の中になら希少なものがあるかもですね」

「それだったら、いっそのこと連休をとってしまおうか」

なんてことはないという風に言ってのけたダイゴさんを、私はジト目で見る。

「……仕事を放りだすのは無しですよ」

「バレたか」

苦笑した彼にため息をついて小さく笑う。

「私はいつでもいいので、泊りがけで行くのはまた今度にしましょう」

「仕方ないね。エリシアがそう言うならまた今度にしよう」

とりあえずは近場だねと笑う彼に、私も笑う。

「楽しみですね」

「あぁ。そのために、エリシアのお弁当を食べて午後も頑張らなきゃ」

笑い合って、ダイゴさんの執務室へと歩みを進める。


夕飯、頑張ったダイゴさんのために好きなもの作ってあげようかな。



   

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