ナイト・イン・ザ・ウォーター 01


 学生時代の思い出と言えば。

 ナイトレイブンカレッジ七不思議。いつから語り継がれるようになって、どこから流れ始めたのかも不明なそらごと。
 ひとつ、肖像画に描かれている人物たちは夜な夜な額縁の外に出ては夜会を開いている。ふたつ、魔法生物飼育室のホルマリン漬けには人間のものがある。みっつ、体育倉庫には金庫があってそこには人を振り落とす悪魔の箒がある。よっつ、学園内のゴーストたちは怨霊として学園に留まっている。いつつ、魔法史科準備室の地球儀は独りでに回り始める。むっつ、植物園の植え込みの中には毒草が根を張っている。ななつ、夜のプールには人魚がいる。

「学園七不思議だと? ……バカバカしい、何を言っている。口を動かす暇があるなら手を動かせ、手を」
「なんだよ、ツレねぇな! でも七つめはマジだぞ!」
「はぁ……これだからバカは……」

 銀の錬成方法を懇切丁寧に教えてやっていたが、目の前の友人は話を聞く気配を一向に見せない。片眉を上げ、マジカルペンを一回転させる。しかし彼は怖気付くことなく立ち上がり、勢いを殺すことなく俺のほうへと身を乗り出した。

「なんだ? また悪魔の何とかか? どうせくだらないんだろ」
「ちげーわ!」
「じゃあなんだ」
「ったく、これだからお堅い奴は……」

 やってらんねぇぜ、と言わんばかりに一昔風のスター俳優よろしく大袈裟に座り直した彼はニヤリと唇を弛めてこちらを見やった。どうにも、自信があるらしい。

「夜のプールに人魚が出るらしい」
「よし、いいか。質のいい銀を効率よく造るためには……」
「聞けよ!!」
「お前の与太話に付き合っていられるほど俺は暇じゃない」
「めっちゃくちゃ美人な人魚なんだって! 一度見たら忘れられないくらいの!」
「でも男だろう」
「それが女なんだよ!」
「ここは男子校だぞ。いるわけがない。それに、この学園で異性と言ったら養護のナマエしかいないだろ」
「いやいや、あれは女って言えるか……?」
「女性に失礼なことを言うものじゃない。躾がなっていないな」
 
 は、と鼻で笑い、走り書きでいっぱいのテキストを閉じてノートと一緒に鞄に詰め込む。
 養護教諭のナマエ。常に白衣を着込んでいる彼女は妙齢の女性であることに間違いはないが、社交的な性格ではないためかあまり目立たない。ナイトレイブンカレッジの生徒曰く、「スタイルはいいけど地味すぎる」「脚のラインは好みだけど華がない」。思春期の男子生徒たちにしてみれば、年若い女性というだけでも関心を引く。だというのに──甚だ失礼ではあるが──件の養護教諭の容姿はいたいけな少年たちの願望とは真逆であったらしい。

「やる気がないなら帰る。俺も暇じゃない」
「デ、デイヴィス〜ッ!! 頼むオレの希望の光〜!!」
「知らん」

 轟くような雄叫びが教室の外まで聞こえてくるが、向かう先はもちろん寮だ。俺はやる気がない奴のために貴重な時間を潰してやれるほどお人好しではない。
 時間をかなり無駄にしてしまった。
 苛立ちを隠せないまま足早に歩いていると、教室から玄関ホールへと続く廊下の先では件の養護教諭が水色のファイルを見ながらゆったりと歩いていた。真面目な彼女はあれで抜けているところがある。転んだりしないのだろうか。俺の心配を他所に、すらりと長い手足を優雅に動かすナマエはオレンジ色に染まった廊下を突き進んでいく。白衣の下から覗く形のいいふくらはぎはやわらかく光を受け、彼女のスタイルの良さを助長していた。首から上を隠せばパーフェクト、なんて失礼なことを言っていたのはサバナクローの誰だったか。
 大声で女性を品定めするような真似をする輩は好きではない。超えてはならないラインをいとも簡単に踏み越える者たちは、無駄に吠える駄犬のようなものだ。いや、犬に例えてしまうのも従順で賢い犬に失礼かもしれないが。



 学生時代に聞いた、にわかには信じ難いナイトレイブンカレッジの七不思議が頭をよぎったのは青々とした空と白い入道雲のコントラストの眩しさに目を細めた時だった。確か、あのバカはこの時期が一番好きだと言っていたか。

「クルーウェル先生はナイトプールの人魚についてなんか知ってるんすか?」

 エース・トラッポラがそんな質問を口にしたのは、授業中に雑談を交えてしまったことがきっかけだった。「更衣室で着替えるのが面倒だからと言って制服の下に水着を着込んでくるなよ」と、毎年夏に少なからず起きる事例を何気なく口にしただけだったが、生徒たちにとってはまさに渡りに船の発言だったらしい。
 ナイトプールの人魚。
 夏前にはこの学園のプールは絶好の肝試しスポットとなり、全寮の生徒数名が夜間の見回りに引っかかる。もはや毎年の風物詩となりつつある校則破りではあるが、今年の夏は一体どれほどの反省文が手元に集まるだろうか。

「今年も噂が回るのは早いな。残念だが、あれは怪奇だとかそういう類のものではないぞ」 
「じゃあ人魚出るってマジなんすか?」
「ああ。否定はしない」

 ブラックボードに事項を書き終え、ノートやルーズリーフに書き写している生徒たちを見渡せば、何人かは顔を上げて俺とトラッポラを交互に見比べていた。授業の話もこのくらい真面目に聞けばいいものを。
 薬草や薬品を使った実験ではなく講義形式の授業になると途端にだれる駄犬はそこそこに多い。学生時代の俺がそうでなかったとは言いきれないがやる気があるふりすらしないあたり、かわいげがない生徒たちばかりだ。

「雑談はここまでだ。どこまで話したか……ああ、そうだ、魔法石が精錬されると魔法化学反応で色が変わることがあるが、この際に出る不純物と水は他の物質の合成にも再利用される。この方法は輝石の国のローゼンクロイツが編み出したことから、ローゼンクロイツ法と言われている。仔犬ども、今書いたチャートはすべて完璧に暗記しろ。試験に出やすいぞ」
「先生、触媒には他のものも使えませんか?」
「使えるが、コストが大きい。効率よく作るにはこれが一番だ」

 昼食後一発目の授業というのは、船を漕ぐ生徒が一番多い。トレイン先生の授業でも居眠りしていなければいいが……これもただの希望的観測でしかないのだろう。俺の授業で寝るバッドボーイどもがいるくらいだ、睡魔に勝てるわけがない。
 視界の端で灰色の毛玉頭が落ち、木製の固い机にぶつかった。随分と大きな音だ。そちらを見やると俺と目の合った監督生が慌てた様子でグリムの脇腹に手を突っ込み、蒼白い表情を浮かべたまま愚かな獣を起こそうとしている。

「堂々と眠るとはいい度胸だ、グリム」
「ふなっ……ち、違うんだゾ!! 寝てなんか──」
「俺の授業はさぞつまらなかったようだな?」
「ふな゙〜!」
「ステイだ。躾られたくないなら真面目に聞け」

 頭がどこかに吹っ飛びそうなほど勢いよく頷いたグリムは小さな肉球がある手で頬をぐにぐにと揉み、青い目をこれでもかと見開いてブラックボードに目をやった。途端に嫌そうな顔をしたが、この単元は暗記量がものを言う。隣に座って大人しくノートを取っている監督生を見習って努力さえすればどうにかなるだろう。
 チョークがついた指先に息を吹きかけ教卓に置いているテキストのページを捲ろうとしたら今度は青みがかかった髪が机に沈んだ。マジカルペンのペン先を手の甲に刺してどうにかこうにか眠気と戦っていたらしく、手袋が外された手には赤い点が点々と広がっている。

「今度はお前か、スペード」
「はっ……しまった!」
「お前が睡魔に抗っていたことは素直に評価してやるがな」
「オレ様の時と態度が違うんだゾー!!」
「ちょっグリム!」
「バッドボーイ……お前は抗うつもりもなかっただろう」
「うっ」

 何も言い返せないグリムの様子に何人かの生徒が笑い、教室内に霧のように薄く広がっていた眠気も多少は晴れたようだ。次回の試験までに終わらせるべき分野までは進んでいるため急ぎ足になる必要はないが、あまりにもゆっくり進めると生徒たちはたちまち眠たげな顔をする。
 眠らせるような授業をする俺が悪いのか、眠ってしまう生徒が悪いのか。
 理想と現実は常に乖離している。ナイトレイブンカレッジの教師になったばかりの頃はそれなりに悩みもしたが、教育者というシビアな職業に求められるのは結局のところ徹底的な知識と経験である。授業がわかりやすければ生徒は自ずと学ぶようになり、この学園唯一の大人である教師たちに反抗しようという気概も持たなくなる。
 なんと単純明快にして、そのくせなんと難しいことかと若い頃は思っていたが、経験を積めば積むほどに現実は理想に追いつき始めた。成功は失敗と苦渋のあとについてくるものであって、一朝一夕で手に入るものでもない。そう学んでようやく、遠回りを経て大人になれた気がした。
 太陽が雲に隠れて一瞬だけ教室が暗くなり、窓際に座っている眼鏡をかけた生徒がちらりとうしろを見た。晴れ渡っていた先ほどとは打って変わって通り雨でも降りそうな空には稲妻が走る鼠色の雲が留まっている。

「次のページを開け」

 雨と雷が嫌いな彼女は、大丈夫だろうか。いや、今は授業中だ。そんなこと考えている暇はない。
 生徒たちにはわからないように頭を振る。

「ここで扱うのはフラメルの法則についてだが──」

 脳裏にちらついた白衣の姿を隅に追いやり、テキスト片手にブラックボードに向き直った。雷鳴と共に降り出した雨粒は窓ガラスを叩きつけ、雨足が強くなっていくばかりの外は白く霞み始めている。


  ◇


「さっさと帰れ。反省文は一人二枚だ。わかったな」
「見逃してくれたりとか……」
「この俺が見逃してやるとでも思っているのか? 罰則を食らいたくなければさっさと戻って明日の授業に備えろ」

 夏恒例の肝試しは既に始まっているらしい。仕事終わりに立ち寄ったプールの前で突っ立っていた生徒数名もまた肝試しのために寮を抜け出したスカラビアの阿呆たちだった。
 ナイトレイブカレッジはかなり自由な校風を持つ学園と言えど、全寮制の閉鎖空間にいれば誰だってストレスが溜まる。何故か夏限定で秘密裏に行われるこれは生徒にとっての娯楽という側面もあるのだろう。

「は〜、せっかく美人見れる機会だと思ったのに……」
「そうだよ先生。俺らに癒しなんてないじゃん。女って言ったら養護のあいつしかいないしさ」
「ナマエがもっとかわいかったらなあ、身体はイイカンジなのに」

 まったく反省していない上にやかましい奴らだ。スカラビアにハーツラビュル同様の厳格さを求めるわけではないが、寮長のカリム・アルアジームは寮生をもっと厳しく管理すべきだろう。

「これ以上反省文を増やしてほしくなければおりこうに寮に戻るんだな」
「うげっ」
「戻りますって!」

 さすがに二枚以上は書きたくないらしい。奴らの顔色が一気に青ざめる。

「バッドボーイ、反省文は金曜までに提出だ。いいな」
「っす、わかってます」
「あ〜だり……反省文書きたくね」
「やっぱり増やすか?」
「いや帰りますって!!」
「生意気言ってすみませんでした! 先生おやすみ!」
「寝ます寝ます! おやすみ!!」

 かわいげのない生徒たちを見送り、意味もなく夜空を見上げて息を細くこぼす。週末の俺の手には六枚の反省文があるだろう。
 まだ夏真っ盛りではないというのに幸先悪いが、学園長のディア・クロウリーが夜間外出への対策を講じる気配がないことを加味すれば当然の帰結とも言える。肝試しが流行る環境がこれでもかと整っており、校則破りの温床となっているのだ。
 ぶーぶーと文句を垂れていた生徒たちの背中が見えなくなった頃合に、プールの入口である扉のドアノブに手を乗せ右回りに回すと簡単に開いた。もしもこの瞬間を生徒に見られていたなら、「先生だけずるい」と非難されるだろう。まあ、俺は教師としての正当な言い訳をいくらでも口にすることができるのだが。校則を破って出歩いている生徒がいないか見回りをしていたと、そう言えばいいのだ。そんな大義名分ならば腐るほどにある。
 鼻をツンと突くような塩素の強い匂いに気を取られ、遅れて聴覚が水の音を拾った。俺はこの匂いがあまり好きではない。
 プールの水が飛沫を上げている。輪郭がぼやけそうな月の光に照らされ、水の中にいるであろう生物の影がうごめいた。
 ナイトレイブンカレッジにはこんな七不思議がある。
 ひとつ、肖像画に描かれている人物たちは夜な夜な額縁の外に出ては夜会を開いている。ふたつ、魔法生物飼育室のホルマリン漬けには人間のものがある。みっつ、体育倉庫には金庫があってそこには人を振り落とす悪魔の箒がある。よっつ、学園内のゴーストたちは怨霊として学園に留まっている。いつつ、魔法史科準備室の地球儀は独りでに回り始める。むっつ、植物園の植え込みの中には毒草が根を張っている。
 そして、最後のひとつは。

「クルーウェル」

 夜のプールには人魚がいる。
 透明な水の渦から顔を出した人魚はプールサイドに立つ俺を見上げ、妖艶に目を細めてかすかに笑った。俺が学生時代に聞いた噂では、彼女は「一度見たら忘れられないくらいの美人」と称されていた。何を大袈裟な、と鼻で笑う人間もいるだろうが……この女に至ってはそんな陳腐で有り触れた称賛さえ似合う。
 髪から伝った雫が瑞々しい肌を流れ、水面に落ちて波状に広がった。

「最近は随分と帰りが遅いようだけど?」
「ああ、勉強熱心な生徒に捕まってな。おかげで残業だ」
「そう。大変だね」
「それより、見に来ている生徒がもういたぞ」
「知ってる」

 彼女は気まぐれで誰にも左右されない。再び水中に潜り込んだ彼女の尾びれが水面を一、二回叩き、砕け散ったガラス片のように細かい飛沫をあげた。頬にかかった水滴は冷たく、大きなプールを満たす水からは冷気すら立ち上っているようだ。
 二十五メートル先で折り返し、あっという間に俺の元まで戻ってきた彼女は息切れひとつしていない。

「さすがの泳ぎだな、ナマエ」
「生意気。前まで表向きは『先生』と呼んでいたのに」
「ではミスとお呼びしようか?」
「マダムの間違いじゃない?」

 わたしはあなたより年上だから、と俺をからかうように笑った彼女には大人びた色気がある。
 養護教諭のナマエは俺がこの学園に在籍していた頃から少しも変わっていない。永遠に色褪せない美貌を持ち、年齢を重ねることもなければ死ぬこともない。逆に俺は生きた年齢分だけ老い始めているのだろうが、ナマエは違った。彼女は妙齢の若い女性らしい肉体を保持したまま生き、一人きりでプールをただよう。

「歳をとりたいと思ったことは?」

 一度、学生時代にそう聞いたことがある。
 何がきっかけだったかは覚えていないが、偶然に偶然が重なり彼女を見つけた。「七つめだけはマジだ」と言い続けていた友人の言葉通り、おとぎ話からそのまま飛び出したようなうつくしい人魚は確かにプールにいた。

「わからない。歳を重ねていた頃のことなんて忘れたから」

 当時の、俺が学生だった頃に投げかけた質問に彼女は微笑み、悲しそうにも見える瞳で俺を見た。あの質問は不躾にも程があったと今ならば強く思える。気が遠くなるほど長く続く永劫の中にいる彼女は誰の手にも落ちず、夜のプールをただ泳ぎ続ける。
 すぐ近くで記憶の泡が弾けた。プールサイドに手を置いて俺を見つめている両目は静けさと不健全な色気を湛えている。

「クルーウェル、もう帰りなさい」
「俺はもう生徒じゃないんだが? 子ども扱いはよせ」
「わたしより年下の子どもでしょ?」
「俺が子どもなら仔犬どもはどうなる? 赤ん坊か?」
「赤ちゃん? そうかも」

 ふふ、と妖艶に笑って見せたこの女に勝てた試しなど一度としてない。十代の頃から散々振り回され、酸いも甘いも身をもって経験した現在に至っても振り回され続けている。

「いい夢を」
「あなたもね」

 ぱしゃん、と音を立ててうつくしい人魚は水の世界へと戻ってしまった。月光を受けて乱反射する鱗は魔法石のように色合いを変え、暗い水の中でちかりと光っていた。


  ◇


 水泳の授業が始まると、俺の予想通り制服の下に水着を着て登校する生徒が増えたようだ。男なのだからそんなに手間も掛からないだろうに、暑苦しい更衣室で着替えるのが面倒だなんだと休み時間に仲間内で喋っていた。
 茹だるような夏の暑さが厳しくなっていくごとに夜のプールに出没する人魚の話題が頻繁に持ち上がるようになり、生徒の興味も惹き付けられるようになっていく。もはや学園の隠れたイベントになってしまっている肝試しにはバカらしい噂までもが付随し、大して面白くもない怪談話に変貌を遂げていた。
 古びた実験着を身につけている監督生は「先生は人魚が誰なのか知ってるんですか?」と口にして鍋の中の液体を掻き混ぜ、保護ゴーグルの下で数回瞬きした。調合したものから生じる刺激臭に鼻を刺激され、涙が出そうになったのだろう。

「ああ、あれは養護のナマエだ」

 本人から口止めされているわけでもない。
 公然の事実として答えたつもりだったが、周囲の生徒たちにとっては寝耳に水の発言だったらしい。広まったどよめきは徐々に騒がしくなっていく。

「不老不死だとかで俺が学生だった頃からこの学園にいた。……いい女だが、あいつは落ちないぞ」

 ナマエはどんな男に口説かれたとしても落ちない。
 永遠の命を持っているが故に経験値が明らかに違いすぎるのだ。十代の若造にどうにかできる女でもなければ、手練手管の男に容易く靡く女でもない。無闇に手を伸ばせばこちらがやられそうな刺々しい色香を匂わせ、狂わせ、惑わせる。
 学生時代に人魚の正体が彼女だと学園中に知れ渡った時も数多の生徒が手のひらを返し、手に入れようと躍起になっていたが──結果は惨敗だった。

「保健室には押しかけるなよ、ナマエの仕事の邪魔になる。去年も大変だったらしいからな」

 果たして、俺の忠告がどこまでの効力を持つかはわからない。
 去年はトレイン先生が人魚とナマエが同一人物であることを明言し、一時期は保健室が使えなくなった。教師側が何も言わなかったとしても、遅かれ早かれサバナクローの鼻が利く奴らに勘づかれる。故に教師たちは隠すつもりがない。正しくは、教師陣“には”隠すつもりがないのだが。

「えっ、てことは先輩たちも人魚の正体知ってたんですか?」
「だろうな。新入生は丁度いいおもちゃになる」
「うーわ、だからトレイ先輩教えてくんなかったのかよ」

 学園の上級生は何も知らない新入生で遊びたいがために真実を教えない。焚き付けて反省文を書かせてやろう、という意地の悪い思惑があるのだろうがナマエにとってはいい迷惑だ。

「クルーウェル先生も狙ってた時期があったんすかー?」
「仔犬、口が過ぎるぞ。おりこうに集中しろ」

 トラッポラを上手くはぐらかして生徒たちのあいだをすり抜けると、あちらこちらから「失敗した」だの「変な色になった」だのの叫びが聞こえてきた。貴重な薬草を使う際は注意しろと再三言ったはずだが、仔犬どもは躾がなっていなかったようだ。
 俺の授業さえしっかり聞いていれば失敗は有り得ないというのに。


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