dear dear

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 そこでまた、王とお話しする機会があるかも知れないのだから。
「もうひとつ大事な話がある」
「よいお話ですか?」
「とてもよい話だ」
 クレスツェンツの機嫌は急降下した。
 兄にとってのよい話。それはクレスツェンツにとってあまりよい話ではないことが多いからだ。
「近々、正式に婚約の話をしようと」
 が、当然のように主語が省かれた内容は、瞬時には彼女の頭に入ってこなかった。
「誰と誰のです?」
 兄はすでに婚約者のある身。彼の話ではあるまい。そういえば、そのおめでたい話もそろそろ実を結ぶころ――と脇にそれかけたクレスツェンツの思考は、そこで停止した。
 答え合わせは必要なかったのに。
 テオバルトは胸を反らし、凍りついた妹に誇らしげに告げた。
「もちろん、かねてからお話をいただいていた、陛下とお前の婚約だよ」






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