dear dear

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 きょとんとしながら歩くクレスツェンツを見下ろし、アヒムはにっこりと笑う。
「施療院にナタリエ先生を連れてきたのは僕じゃなくてあなたですし、陛下さえ施療院に誘うし」
「う、思い出したくないことを……」
「相手が気難しい患者でも、聞きわけのない子供でも、僧侶でも貴族でも商人でも、誰とでも対等な繋がりを持てるのは、すごいことだと思いますよ」
 アヒムは人を褒めるとき、こっちが恥ずかしくなるほど直截にものを言う。
 クレスツェンツはきゅっと眉根を寄せてうつむいた。照れ隠しだった。
 アヒムもそうと分かっているようで、もうひとつくすっと笑った。
「お前だって初めは近づきがたい雰囲気だったが、今では誰とでも仲よしじゃないか」
 笑われるだけでは悔しかったので、クレスツェンツもアヒムが言われて恥ずかしいであろうことを突きつけてみた。
「ま、まあ……都に来たばかりのころはね……」
 初めて話した日、冷たくされたことをクレスツェンツは忘れていない。許していないわけではないが。
 これを引き合いに出すとアヒムは未だに狼狽えた。クレスツェンツが許していようとも本人は気にしているらしい。面白いので時々この話をしてからかってやる。
 しかし実際、アヒムの雰囲気は変わったと思う。丸くなったとか、壁がなくなったとか、そんな曖昧な表現しか出来ないけれど、笑顔が増えて親しみやすくなったのは確かだ。
「ふふん、さてはわたくしを見倣っていろいろ改めたというところか」
「そうですよ」
「あー、いいのだ無理に否定しなくても。それだけわたくしのことを買ってくれているのだから参考にするところがあるのも当たり前――うん?」
「否定していませんけど」
「え、そ、そうなのか……?」
「いけませんか」
「いや、ううん……」
 当人に自覚はないようだが、アヒムはこれで結構負けず嫌いだ。だからこうもあっさり『クレスツェンツを見倣って』いることなど認めはしないだろうと思っていたのに。
 いや、あっさりといえるほど簡単に認めたわけではないらしい。その証拠に、アヒムは頬を赤くしてクレスツェンツから視線をそらした。西日のせいで肌が赤く見えたわけではなさそうだ。

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