dear dear

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「そうですね。でも、特別裕福な村でもないので、僕にいくら知識や意欲があっても薬や道具をそろえるには限界があるし……だから、オーラフ様の構想にはすごく期待してるんです」
「アマリアの僧医を、地方へ派遣する仕組みのことか」
「ええ。教会は王国全土に広がる組織です。街の教会は大なり小なり施療院の機能を備えているし、基盤はあるでしょう? あながち夢物語ではないと思うので、アマリアのような、もしくはそれに準じるくらいの医療を地方でも用意出来るようになればありがたいなと。実現すれば知識や技術と一緒に物資も普及するはずだから、辺境の村は教会を通してものを調達出来ればいいなとか考えてみるんですが」
「うん、確かに。それこそグラウン家の強い連帯感が活きそうじゃないか。なるほど、アマリアと同じ水準の医療を王国全土にね……」
 住む場所が王都であれ、地方であれ、人々が健やかに働き、生きていけるのは素晴らしいことだ。けれどあらゆる面で格差があるのもまた実情であり、それを埋める方法は考えなくてはならない。
 いや、しかし。逆に王都には処方の知識があっても、原料は地方の限られた地域からしか入手出来ない薬だってある。
 格差ではなく違いであると思えばいいのではないだろうか。施療院と大学院の交流を目指しているのと同じ、知らないことは教え合い、持っていないものがあるなら与え合えばいい。
「なんですか、その顔」
「え? うん、ふふふ……」
 いつの間にか口許が弛んでいたらしい。こちらに向けられたアヒムの表情が若干気味悪そうなのにはむっとしたが、それ以上に楽しい、可能性に満ちた青年たちの夢に乗っかり、クレスツェンツはスキップでもしたい気分だった。
「お前もオーラフ様も、いろんなことを考えつくなぁと思って。大学院との話も進めたいが今の話も動かしてみたいな。きっと人々に大きな幸福をもたらす話だろう」
 あとでオーラフに詳しい話を聞いてみようと思うとますます顔が弛む。そんなクレスツェンツの耳に、思いもかけない言葉が入り込んできた。
「あなたが動かすと言ったら、本当に動きそうで心強いです」
「そうかな……」
 そんなことを言われたのは初めてだった。

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