dear dear

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V


「身体は辛くありませんか?」
 クレスツェンツの涙が収まったころを見計らって身体を離し、アヒムは問うてきた。
「ああ、もう苦しくない。お前が現れたとたん楽になったよ」
「よかった。長い間、痛みを我慢なさって仕事をこなしていらしたでしょう。ずっと気がかりでした」
 安堵の溜め息とともに彼が呟くのを見て、クレスツェンツは苦笑する。
「やっぱり見ていたのか」
 アヒムの言う通り、特にこの一年は激痛との戦いだった。何度も血を吐いて昏倒したことがあったし、ひと月ほど前から痛みを誤魔化すための薬の量が急激に増え、ほとんど酩酊したように過ごす日も多くなり、そうでなければ、痛みを堪え寝台の上でのたうち回っている状態だったのだ。
 それでも生きていなければと思った。わたしは旗印だからと。夫や仲間を支えねばとこれまで通りに努力したし、また彼らも、クレスツェンツの体調を慮りながら彼女を支えてくれた。
 身体は辛かった。でも、悪くはない一年だった。あとは、この親友がそれを認めてくれればいい。
「すごく頑張っただろう、わたくしは。もっと褒めてくれてもいいぞ」
「ええ、よく頑張りましたね」
 アヒムは別れる前となんら変わりない率直さで頷く。こっちが照れてしまうほどの無垢な笑い方で、しかしクレスツェンツはただ嬉しくて、目尻に残っていた涙をぬぐいながらアヒムに微笑み返した。
 そしてふと思い出すことがあった。アヒムに返さねばならないものがあったのだった。
 まさか直截手渡せる日が来ようとは思ってもいなかったのだが。
 クレスツェンツは襟元をゆるめ、僧侶の証のペンダントを取り出した。七年前、アヒムの骸から形見としてもらってきてしまったもの、彼の代わりにはなり得なかった、けれど少しだけ勇気をくれるお守り。
 それを見たとたんアヒムは目を瞠り、差し出すクレスツェンツの手からペンダントを受け取って苦笑する。
「危険を顧みずユニカを迎えに来て下さったこと、本当に感謝しています。ありがとうございました」

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