dear dear

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 萎れていた実態のない身体に、どんどん力が溢れてくる。
「迎えがお前だなんて、あんまりじゃないか」
 しゃくり上げながらクレスツェンツが言うと、親友は困ったように眉尻を下げた。
 その顔を見ると、腹が立つのと同時に彼女を支配しようとしていた孤独と恐怖が一瞬で掻き消える。
 代わりに溢れてきた安堵感は、しかしやはり涙を伴っていて。
 クレスツェンツは飛びつくようにアヒムの首に腕を回した。そして彼の肩に額を押しつけ、声を上げて泣いた。
 会いたくて会いたくて堪らなかったのに、永遠に失われてしまったはずの再会の日が、ようやく訪れたのだ。
 アヒムはそっとクレスツェンツの背中に腕を回し、頭を撫でてくれる。ほのかに憧れを抱きもした青年の腕の中にいることに、彼女はほんの少しだけ酔う。
 髪を撫でてくれる手つきも、背中に添えられた掌の感触も、まるで子どもをあやすためのそれだったが、クレスツェンツは深い満足のうちに存分に涙を流した。






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