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祭壇は白い紙の花に埋まっているような状態だった。辛うじて見える壇上には、本物の花も飾ってある。
女将は籠から丁寧に紙の花を掬い上げ、祭壇の周りに積まれた花の上に、更にそれを盛っていく。
そして彼女はうやうやしく跪き、祈りを捧げた。
「王妃さまのご病気がよくなりますように」
クレスツェンツは息を呑んだ。しばらくじっとして祈りを捧げる女将の背中を見守る。
やがて女将がいなくなると、彼女は祭壇の前に立って天井画を見上げた。
ドーム状の天井に描かれた女神ユーニキアは、銀に輝く雷の槍と、もう一方の手には青い花を持っていた。あの花は地上にない甘美な香気を放ち、万能薬になるという。それゆえ彼女は病から人々を救う女神とされていた。
ここに集められた白い紙の花は、祈りとともに女神に捧げられたものだ。花を摘んだり買ったりすることの出来ない施療院の患者たちが、薬包紙で花を折って、この祭壇に捧げているのだ。
女将がいなくなったあとからも、別の手伝いの女、街の医者、施療院で働く僧侶などが、生花を、あるいは紙で折った花を持って祭壇の前へやって来た。皆一様にクレスツェンツの快復を祈っていく。
やがて、長らく同志としてつき合ってきた施療院長オーラフが、大きな花束を抱えてやって来た。彼はどこか寂しそうに、天井で微笑む女神を見上げる。
「女神ユーニキアよ。あなたがお持ちになっている青いお花を、王妃さまのもとにお遣わし下さい。皆あの方のお戻りを待っております。王妃さまは、天上におわすあなたの代わりに多くの人々を救うでしょう。どうかあなたに花を捧げた者たちの願いを、お聞き届け下さいますように」
その祈りの切実な響きに、クレスツェンツの胸が詰まった。
皆、待っている。クレスツェンツが病を治して、指導者として施療院へ戻ってくることを。
オーラフが祭壇の前を去ると、項垂れていたクレスツェンツはその場にうずくまった。
誰にも聞かれていないだろう。しかし彼女は両手で顔を覆い、こみ上げてくる嗚咽を必死で堪えながら泣いた。
夫、息子、施療院の仲間、部下たち。
自分はなんとたくさんのものを遺して逝かねばならないのだろうか。
どうしようもない絶望感に襲われた。
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