天槍アネクドート
落ち葉かき(3)
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「終わるか、こんなもん!」
 今度はユニカが悲しげな顔をしてもだめである。
「やめようぜユニカ、こんな意味ないこと」
「でも……」
 養父とキルルにお願いされた仕事を放ってはおけない。が、エリーアスが手伝ってくれないと家の前から教会堂の前までの掃除は範囲が広すぎて手に負えない。
 どうしようかな……と思っていると、不意に頭の上からはらはらと木の葉が落ちてきた。 何ごとかと思って顔を上げれば、エリーアスがニヤニヤしながらせっかく集めた落ち葉をユニカの上に降らせている。
 ほの甘い香りを放つ葉っぱが鼻をかすめて落ちていくのを、ユニカはしばし呆然としながら感じていた。少ししてようやく目の前の大きなやんちゃ坊主が本格的に遊び始めてしまったことに気づいた。
「もう、エリー!」
 エリーアスは自分よりうんと小さい女の子に叱られても肩を揺すって笑うだけだ。それどころか再び落ち葉をすくい上げてユニカの上に降らせようとしている。
「また散らかっちゃう!」
「いいっていいって」
 ぜんぜんよくない! と思いつつ、降りしきる落ち葉を目をつむってやり過ごしていたユニカだったが、どうにも腹の虫が治まらなくなってきた。エリーアスと同じように箒をほっぽり出すと、あたたかい落ち葉の中に腕を突っ込む。
「ぶわ」
 そして思いっきり腕を払い上げれば、エリーアスの顔に落ち葉の塊がぶつかった。空中で散ったそれはユニカの上にもばさばさと落ちてきたわけだけど。
「……」
 葉っぱまみれになったまま黙っていた二人だが、瞬きを二、三度もすればどうしようもなくおかしくなってきた。
「今散らかしたのはユニカだからな」
「エリーが先にやったんだもん」
 そんなことを言い合い、ケラケラ笑いながらふんだんにある落ち葉を引っかけ合う。よく乾いているようで実はしっとりとしたぬくもりと木の匂い、土の匂いを含んだ木の葉にまとわりつかれるのは結構気持ちがいい。
 そのうちコツンと額にぶつかるものがあって、足許を覆った落ち葉の中に紛れ込んだそれを拾ってみると、まん丸のどんぐりだった。それがまたおかしくて、ほかにも葉っぱに紛れ込んでいたどんぐりを探してユニカとエリーアスはがさごそと葉っぱの中に手を突っ込む。
 そうしてふざけていた時間はごく短かったのだが、今日はとことん、エリーアスにツキのない日だった。(ユニカはあくまでもそう思う)
 落ち葉あさりに夢中になっていた二人の背中にゆらりと影が覆い被さる。続いて手許が暗くなったことに気づいたエリーアスはふと振り向き、引き攣れた声で「げっ」と呻いた。
「……誰が二人で遊んできてって言ったの」

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