天槍アネクドート
落ち葉かき(2)
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 夜中に目覚めたエリーアスは夜食を食べたらしく、お腹も満たされ気持ちよく寝ていたのだろう。が、太陽が昇っても寝ていていいのは病人だけ、と言って、養父は容赦なくエリーアスを寝台から引きずり出した。
 それからエリーアスには災難(?)が続いた。ユニカと二人でぽやぽやしながら顔を洗い朝食を食べていると、その日は養父が外出する予定だったので、留守番のためにキルルがやって来た。それでエリーアスは心なしか元気になったように見えたのだが、
「どうせ暇でしょ。ユニカと一緒に仕事をして」
 と、次々に洗濯やら掃除やらを命ぜられたのだった。
「年がら年中あちこち旅してて、ゆっくりだらだら心ゆくまで寝坊できる場所なんてそうないんだぜ。いいじゃん、寝てても。アヒムの家は俺の家だろ。家でくつろぐのは当たり前だろ」
 植木鉢に腰掛けたまま、不機嫌なエリーアスは箒の柄でぐりぐりと地面をほじくる。早起きするのが苦手なユニカはエリーアスの気持ちが分からないでもなかったが、太陽とともに生活を送るのは人の基本だ。(と養父が言っていた)明るくなったらちゃんと働いて、暗くなったらちゃんと休まなくてはいけない。
 そうは思うものの、すっかり拗ねたエリーアスを説得する言葉が見つからず、ユニカは箒を抱えて途方に暮れ始めた。その時。
 ひゅうっと、木々の枝が風に鳴いた。
 さほど強くはないものの、教会堂と養父の家を包み込むように一陣の秋風が通り過ぎていく。風はユニカの髪やエプロンを揺らし――集めてあった落ち葉の小山をザッと散らしていった。
「あっ……!」
「ははは! ほらな、どうせすぐ散らかるんだから、やってもやらなくても同じ同じ」
 まっさらになったところの玄関先が、再び赤や黄色、柔らかな茶色の落ち葉で賑やかになる。せっかっく集めたのに。ユニカは言いようのない切なさを感じて目を潤ませた。
 するとエリーアスは何か思い違いをしたらしい。しゅんとうなだれたユニカを見て気まずそうにうなじを掻くと、仕方なくといった様子で植木鉢から腰を上げた。
「あーまぁ、でも、やってなかったら怒られるよな。一応片付けるか」
 どうやら、危うくユニカを泣かせるところだと勘違いしたようだ。相変わらずやる気は感じられないものの、彼はひとまず散らされたばかりの落ち葉を集めにかかってくれた。理由はともあれ、エリーアスが一緒にやってくれれば落ち葉かきなど簡単だ。
「うん」
 ユニカもエリーアスと数歩の距離を置いて、再び箒を動かし始める。


  が、やはりエリーアスの忍耐はそう長く続かなかった。集めていた落ち葉が何度かそよ風に弄ばれてふわふわ崩され、あまつさえ彼の顔めがけて数枚の葉っぱが襲いかかってきたので、忌々しげにそれを振り払ったエリーアスは一緒に箒も投げ捨てた。

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