シングル・ピース(11)
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耳障りな鐘の音が耳を叩き、アヒムの意識は無理矢理浮上させられた。
鐘をついているのは誰だ。下手くそだな。まずそう思う。
今日の当番は誰だったか。思い出そうとしても名前が浮かんでこない。
仕方なく重たい瞼を持ち上げてみる。見慣れた机、見慣れた書棚。腕には温かいものを抱えていた。何かなと思って確かめてみると、艶やかな黒髪が見えた。
ああ、ユニカだ。一緒に寝たのか。
時々あることなのでそれには驚かない。むしろ今までにない寒い朝なので、小さくて温かい娘の身体がくっついているのはありがたかった。いや、ベッドから出られなくてやっぱり困るかな……。
ユニカの身体を抱え直し再び眠ろうとしていたアヒムだが、ややおいてようやく異常事態に気がつく。
ここはブレイ村だ。都のグレディ大教会堂にいた頃の記憶が混じり込んでいたが、一気に目が覚める。自分以外に鐘をつける者などいないはずだし、すっかり空が白み始めているではないか。
詰まるところ、寝坊である。
飛び起きた途端、目が回る。両方のこめかみを万力で締め上げられているかのような頭痛に打ちのめされ、アヒムは頭を抱え呻いた。
隣で寝ていたユニカも目をしぱしぱさせながら首をもたげ、何事かと辺りを見回している。遅くまで大人達に付き合い起きていたので、まだ半分眠った顔だ。
「ごめんごめん。まだ寝ていていいよ」
ユニカは養父の言葉にこっくりと頷き、ほとんど倒れるように枕へ顔を埋めた。
すぐに聞こえ始めた寝息を背にアヒムはふらふらとベッドを降り、法衣を羽織ると怪しい平衡感覚で私室を出る。
薄暗い廊下には霜でも降りているのではないかと思うほどの冷気が立ちこめ、アヒムの吐く息も白かった。これは確かめるまでもなく、雪が積もったなと思う。
案の定、居間の窓は白く曇り桟には雪が張り付いていた。
散らかったままの食卓の上は見ないように玄関の扉を開けると――ほとんど同時に中へ押し込まれた。
「馬鹿、出てくるなよ……!」
大柄な幼なじみに半ば突き飛ばされた状態で、アヒムは二、三歩よろけ後退った。
「ヘルゲ……」
恨めしい目つきで彼を睨むが、ヘルゲは気づかずに窓の外を窺っている。そろそろ村人が礼拝のために教会堂へ集まってくる。アヒムの姿を見られていないか気にしているらしい。
「鐘を鳴らしているのはエリー?」
「おう。なんか、違うよな。お前の鳴らし方と」
「下手だなぁ、もう……」
昨晩、エリーアスに導師職を譲るなどという話をした気がするが、これでは到底無理だ。
彼は一カ所の教会堂に長く留まることがほとんど無い役割を受け持っているので、鐘をつき慣れていないのは仕方ないと言えば仕方ないが、祭事に音楽はつきもの。基礎は学んでいるはずなのに覚えていないというのも、僧侶としてどうなのだろう。導師になる以前の問題ではないか。
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