天槍のユニカ



月が欲しい(3)

 アルフレートにしおりを返すと、彼はそれを大事そうにクラヴィアの上に置き直す。男の子が持つのは少々可愛らしすぎる品だが、アルフレートがそれを愛用しているのはよく分かった。
 本のしおりか。
 それならいくらでも使う機会がありそうだし、手芸はユニカの得意分野だ。
 その日のアルフレートの演奏は、本人が自覚していた通り確かにぎこちなかった。しかし、ユニカはぼんやり聴きながら拍手を送っていたので、それに気づいていたような、いないような。
 レースを編むとしたらどんな図案にしよう。
 ユニカはそれを考えていた。

* * *

 旅の大半はゆるやかな川の流れに沿って進んだ。
 今日も朝から数時間を馬車に揺られて過ごし、休憩に立ち寄った街の貴族の居館も澄んだ川の流れの近くにあった。散策してきてよいと言われたので、ユニカは騎士を一人伴って庭園の一角から景色のよい川辺へ出る。
 ついてきたのはリヒャルトだ。顔合わせの時、この騎士もずいぶん気安い雰囲気を出していたが、どうやら悪ふざけに走るのはラドクやアロイスと絡んだ時だけのようだ。ウゼロ公国には婚約者もいるそうで、そう遠くないうちにその女性をシヴィロ王国へ呼び寄せ身を固めるだろうとのこと。で、ラドクとアロイスにはそういう相手がいないから余計に落ち着きがないのだろう、とエリュゼが言っていた。
 騎士の中で一番若いのがフィン。エリュゼと同い年だ。旅が始まってからは前の主君であるレオノーレに引きずり回されている。カスパルは年長者で妻子もおり、さすが四十路を越えた貫禄があった。彼の息子はクリスティアンの従卒として修行中だそうだが、今回は連れてきていない。
 クリスティアンはそんな五人の騎士達の上官で、特にラドクとアロイスの行動に目を光らせながらもユニカに対する時は親切だった。
 シヴィロ出身の二人の騎士もすぐにウゼロから来た僚友達と打ち解け、つられて和やかな顔をしている。
 旅はわきあいあいとしていてよい雰囲気だ。カイの計画と気配りが一番ユニカに快適な旅を提供してくれているのだとは思うが、武器を持っている騎士達がしかめつらしくないのも一因だろう。

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