寄る辺なき小鳥(24)
しかしユニカには思い当たることがあったので、カップを置いて立ち上がった。
「公子様からでしょう」
「公子様がユニカ様にくださるとおっしゃっていたのは、リースですわ」
「リースを作るには時間がなかったのよ。さっき帰ってしまわれたから」
そして、困惑するエリュゼからハーブの束を奪うように受け取り、その中に鼻先を埋めてみる。
ラベンダーを中心にしたよい香りのハーブのブーケだった。枕元に飾っておけば寝る時にさぞ心地よいだろう。
「寝室に飾って」
「ですが……陛下を通さずににユニカ様に贈りものはしないよう、王太子殿下はおおせつかっていらっしゃいました。公子様がそれをご存じないとは思えません」
自分でも気づかずに笑みを浮かべていたユニカから、厳しく眉根を寄せたエリュゼは容赦なくハーブを奪い返す。
別に、ただ王からのカードが添えられていないだけの話ではないか。それだけで王が把握していない贈りものだと判断するなんて……とは思ったが、エリュゼはユニカの表情になど目もくれず、差出人を示す手がかりはないかとハーブの中をあさっている。
「いいじゃない、エリュゼ」
その険悪な空気を恐れたのか、テリエナが引き攣った声で言った。
「ユニカ様はそのハーブを楽しみにしていらしたのよ」
「そうそう、せっかくいただいたんだし、ユニカ様を怒らせることもないわ」
するとフラレイがそれに続き、エリュゼに耳打ちしながらハーブの束を彼女からもぎ取ろうとする。ユニカを怒らせたくないという理由で、幼い侍女達は珍しくユニカの味方に回った。
「でも、公子様から贈られてきたものだという確証がないのに……」
「気にしすぎよ」
力を合わせてエリュゼからハーブを取り戻すと、テリエナは花瓶を取りに行き、フラレイはハーブの束をユニカに返してくれた。
「青と紫のお花がとってもきれいですわね。この時期にこれだけのお花をそろえてくださるなんて、公子様は本当にユニカさまに感謝なさっているのですわ」
ユニカはむっつりとしたまま返事をしなかったが、フラレイの言葉にはまんざらでもないと思う。そしてしっかりとハーブの束を抱え、エリュゼに取り上げられることを警戒しながら暖炉の前に戻った。
そうだな、悪くない。こうして感謝とともに贈りものをされるのも。
一輪の小さな青い花を指先で弄びながら、ユニカは胸をくすぐるこそばゆい思いに目を細めた。
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