寄る辺なき小鳥(23)
「言われなくても――あれ?」
舌を出していたエイルリヒは、ふとドンジョンの門を見上げて首を傾げた。
「どうした?」
ディルクも一緒になって門を振り仰ぐ。彼らが初めてこの門をくぐったおよそ一月前の光景を思い出した。
衛兵が見張りをするための窓から空色のドレスがちらりと覗く。ストールは落ちてこなかったが、そこに誰がいたのか、二人は何となく察した。
「見送りに来てくれたってことでしょうか」
「……お前、やっぱり帰らないでユニカの気を引くのを手伝え」
「嫌ですよ。剣で突っつかれるんだもん」
鐘の音が響く中、使節団の行列は厳かな足取りで城門へ向けて降り始めた。
先月のような騒ぎを起こさずにドンジョンから戻ってくると、ユニカは満足そうにはしゃぐリータとフラレイを眺めながら暖炉の前に座った。
今回はついて来なかったエリュゼが部屋で熱いお茶を用意し待ってくれていたので、冷たくなった手をカップで温めながらユニカはそれを飲む。
温室で彼らに会ったことを思い出してみると、そんなに嫌なものでもなかったなと思う。
原因はなんとなく分かった。予想に反して、彼らがユニカの事情に触れてこなかったからだ。
血を用いて人を救うことを、もちろん自分では受け入れられない。けれどあれほど素直に礼を言われたのも初めてで、他人と普通の会話をしたのも久しぶりで。
もう一度くらい、ああいう機会があってもよかったかなと思えてしまう。
「ユニカ様、今、宮の入り口でこれを預かりました」
もの寂しい気持ちになりかけていたユニカは、お遣いから戻ってきたテリエナの声ではっと我に返った。そして彼女が抱えているハーブの束を見て目を瞠る。
「預かったって、どなたから?」
「分からないわ。お名前を言ってくださらなかったの」
「陛下からではないようだし――」
ハーブの束を受け取り、王からの贈りものについているカードが見あたらないことを訝しんだエリュゼが困り顔で首を傾げる。
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