春の在り処は(20)
領主館の管理をしてくれている村長や現地の教会堂への土産物が質、量ともにそろっているか点検し、人足と同行する召使いも選び、警護の騎士達と道程の打ち合わせを行い。まさに休む暇もなかったに違いない。
しかも、ここへ来て増えすぎたレオノーレの荷物の積み込みが遅れたり、出発が楽しみで眠れなかったアルフレートが寝坊したりして、彼の完璧な段取りが早くも一時間押している。
機嫌が悪いくらいのことは黙って見守ってやらねばなるまい。
「レオはどこに行ったのかしら?」
「初日は騎乗して移動なさるそうです」
車へ乗り込みながら一緒に乗るはずだった姫君の所在を尋ねると、カイは吐き棄てるように言った。はしゃぎきった公女の身辺を誰が守るか、騎士に確認しておかねばならなくなったからだろう。
「じゃあ僕、姉上と同じ馬車に乗っていってもいいですか?」
そこへ駆けつけてきたのは、一時間余計に睡眠をとりいつも通りの溌剌とした顔で出発を待っているアルフレートだった。
「お前は僕と同じ車だ」
「嫌だよ。だって兄上、機嫌が悪いし」
「誰のせいだと思って……」
「公女殿下のせいでしょう?」
すべての罪をレオノーレになすりつけ、アルフレートは嬉々としてユニカの隣に乗り込もうとする。カイはそんな弟の襟首を掴んで引きずり戻した。
「お前のせいでもある。とにかくだめだ。公女殿下が疲れたとおっしゃった時のために席は空けておかないといけない。これ以上予定外のことをするな」
きっと、最後の一言にカイの思いが凝縮されているのだろう。
「もう間もなく出立します。そこで大人しくしていてください」
「はい……」
据わっていても少し隈の出来た目でそう言われたら、迫力がある以前に気の毒だ。ユニカが素直に頷くのを確かめると、カイはアルフレートを後ろに停まっていた馬車に押し込み、隊列を守るクリスティアンのもとへ向かった。
「もう少し気を抜いてもよろしいのに。五日もかかる旅ですもの、そう何もかも予定通りには行かないものですわ」
エリュゼの言葉には一理あるが、カイには難しいだろうなと思った。
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