春の在り処は(19)
それに、今回任されたのは患者達に着せる寝間着だった。ユニカの裁縫の勘が戻ってくるのに合わせて、オーラフの依頼は絶妙な加減で難度を上げてくる。
「大霊祭の時には、みんな新しいものを着られた方が気持ちがいいでしょう」
大霊祭は無事に秋を迎えるための祭事であると同時に、年明けに次ぐ一年の節目。家具や衣類など、身の周りの様々なものをこの機会に新調するのは庶民も貴族も同じだった。どうせならそれに間に合うように施療院へ届けたい。
「他人のために仕事熱心なところが、アヒムに似てきちまったみたいだなぁ」
エリーアスが呆れたように笑うので、ユニカははっとして表情を強張らせる。
「褒めてるんだぞ」
それに気が付いた彼が眉を顰めながら頭を撫でてきた。
分かっている。そして、恐らく自分が踏み出した方角は多くの人がそう*]んできた方角だ。喜ばれて当然だし、ユニカにとっても――
「エリー、私、多分、もう大丈夫なんだわ」
「そうか」
「エリーにちゃんと話せたからよ。それに、本当のことを知ってもエリーは私の家族でいてくれたから……だから、ありがとう」
「礼を言われることじゃない」
頭に押しつけられるエリーアスの手にぐっと力がこもる。いつものようにわしわしと掻き回されないのは、エリュゼが一生懸命結ってくれたユニカの髪型を気遣ってのことだろう。青いリボンを編み込まれた髪にはディルクがくれた矢車菊の櫛も挿してある。
エリーアスは、サファイアと紫水晶で出来たその花を束の間見つめているようだった。が、最後にぽんぽんとユニカの頭を叩き、至極真面目に言い加えた。
「俺の分の土産も忘れるなよ」
布をディディエンに預けてエリュゼと一緒に乗り込む馬車へ向かうと、その傍に佇んでいたカイにじろりと睨まれた。
「ようやくいらっしゃいましたか」
「遅れてごめんなさい……」
馬車の扉を開けさせ無言で中へ入るよう促してくる弟は、この十日ほどどんなに忙しかっただろう。
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