天槍のユニカ



相続(20)

「なぁに? ユニカったらあたしに内緒で出掛けるの?」
「姉上が王妃様からいただいた領地の視察へ行かれるんですよ」
 アロイスに丸め込まれたレオノーレも部屋へ戻ってきて、立ったまま二杯のお茶を飲み干していた。三杯目を注がせていた彼女はきらりと目を光らせる。髪は男のように無造作にくくったままだったが、そうすると騎士姫はいつもの活発な姫君に戻った。
「すてきね。あたしも一緒に行くわよ」
「僕も!」
 レオノーレは当然のごとく胸を張って宣言し、アルフレートも置いて行かれまいと包帯を巻き終えていた手を挙げる。
 困惑するユニカの後ろで、カイが盛大に溜め息をついた。

* * *

 ディルクは王都の城壁を東に望みながら、春風が髪をもてあそぶのに任せていた。
 彼が立っているのは、アマリアの西に隣接するナソリ城の角櫓だ。創建は未だ国が安まらぬ二百年以上の昔という歴史を持つこの城砦は、王都の西の守りとして現在に至るまで重要な兵の拠点である。
 しっかりと修繕されている城のそこここに目を配りつつ、ディルクは砦将を引き連れて城内へと戻った。
 午後にはここを発ち、今回は五日をかけて王都周辺の軍の拠点を見て回ることになっている。
 主な目的は将兵との顔合わせだ。冬の間は貴族の相手ばかりしていたので、この挨拶回り≠ヘ少々遅いくらいだ。
 日程は短いが、出来るだけ丁寧に各所の指揮官と話をして部隊の状況把握に努め、ディルクが兵権を握ったことを認めさせていかねばならない。
 贈りものか脅迫で操ることが出来る貴族達とは違い、話すだけではなくなんらかの実績を示していかねばならないだろうが、ディルクが育った畑はもともとこちら≠セ。やりがいを感じないと言ったら嘘になる。
 ナソリは王都から近いこともあり、砦将を新年の祝賀に招いておいた甲斐あって今日はディルクを歓迎してくれた。お互いに気持ちよく談笑しながら昼食の準備が整うのを待っていたところへ、王城からの使いがやって来た。数日留守にするので、エルメンヒルデ城へ届いた書簡は順次ディルクを追いかけてくるよう手配してあったためだ。

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