レセプション(5)
ユニカとしては特に興味を引かれるわけでもなかった。彼女は彼女を庇護する王のことにさえ興味を持たないようにしていた。
望んで城にいるわけでもないし、望んで生きているわけですらない。ただじっと、約束の時を待っている。ただその時がくるまでは時間が有り余っているわけで、それを食いつぶす術だけは彼女の求めるところだった。
「見に行ってみる?」
「えっ……?」
侍女たちはきらりと目を光らせて食いついてきた。
「でも、温室へ行かれるのでは?」
形だけの一度目の辞退。ここで言葉を翻してやろうかとも思ったが、ユニカは抱えていた本を撫でながら考えた。
王国の服喪につき合っている間、読書とレース編み以外の趣味を慎んできた。舞踊も歌も、湯舟に花を浮かべてゆったり入浴するのもだ。少し身体を動かしたい。
ユニカの存在は公には認められていないため、公子のレセプションに呼ばれることはないし姿を見せることも許されない。だから遠目にこっそりと使節団の行列を見るくらいしか出来ないだろうが、散歩がてらに。
「読書は午後からでいいわ」
侍女達は、きゃーっと黄色い笑い声をあげて手を取り合った。すっかり公子に会えるつもりでいるかのよう。
見に行くだけなのよ、とはユニカも訂正しなかったが。
ごろごろと空が鳴り始めたのを聞いて、ユニカは眉を顰めた。
「ドンジョンまで参りましょう。わたくし、人目につかず広場を見下ろせる場所を存じております!」
うなじがピリピリしだしたので、ユニカは侍女が言った言葉を軽く聞き流してしまった。
* * *
初代王妃の名をつけられたエルメンヒルデ城は、大きな丘を利用した要塞機能も十分な城だが、創建当初からそれをあまり表に見せない優美な城だった。乳白色の城壁と丸みのある屋根や尖塔は王妃の名を冠するに相応しい気品を漂わせている。
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