天槍のユニカ



『娘』の真偽(10)

 置き去りにされた短剣もそうした質の悪い剣だ。どこで誰が買い求めたか調べるのは時間がかかるばかりで、やはりトカゲの尻尾で終わりそうだった。
「でも捜索は続けさせます。右腕には火傷、左肩には兄上が付けた傷。これを同時に負った者ならかなり目立つはずです。締め上げ方によってはユニカの命を狙う貴族の名前がちらほらと出てくるかも知れない」
「出てきたところで、彼らは至極真っ当なことを考えているからな。どうやってユニカの存在の正当性を示せばいいのやら」
「その前に、強硬な連中からユニカを守ってあげなくちゃいけないでしょう。相手が分かれば守りやすいじゃないですか。兄上が王家へ入ったことで少なからず波が立っています。ユニカを排除しようとする動きは間違いなく活発になるはずです」
 ディルクは不適な笑みを浮かべた。テーブルの真ん中に飾ってあった一輪挿しの薔薇に手を伸ばし、指先で撫でる。
「だから、兄上がしっかり守ってあげるんです」
 孤独な娘のすべてを包み込み、この手の中に囲い込むために。
 ディルクが軽く引っ張ると、薔薇の花弁はいとも簡単にむしり取られた。

     * * *

 午(ひる)を過ぎ陽が傾き始めるとあっという間に気温は下がっていった。大気の色は薄青く、余計に寒く感じる。
 ユニカが持っていた本を拝借して読んでいたディルクは、手許の暗さに限界を感じて顔を上げた。バルコニーへ出る硝子戸へ歩み寄り、青白い雪の庭を眺めてから分厚いカーテンを引いて寝室を出る。
「ティアナ、そろそろ灯りを……」
 言い終える前にティアナは火の点いた燭台を差し出してきた。準備していたところだったようだ。
「ありがとう」
「ユニカ様のご様子はいかがでしょうか」
 火を受け取り、ディルクは寝室の中を振り返った。外に残るわずかな日光も遮られ、中は真っ暗だ。しかし、寝台の上に横たわる部屋の主が苦しげに胸を上下させているのが見える気がした。

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