天槍のユニカ



羽の海(3)

 師弟というより親子のような親密さがあった二人の様子が、ぎこちなく、間に分厚い膜が張っているように見えた。
 それに、聖堂の掃除は下っ端の僧侶がやる仕事である。僧侶になって三年目のフォルカだってもうやらない。
 このままエリーアスがパウルのところから引き離されることになったら、嫌だな……。二人の関係が自分の出世に関わることである以上に、フォルカは家族の温かさを感じさせてくれる二人≠フことが好きだったので。
 しゅんとしているフォルカの気分が伝わったのか、パウルが不意に足を止めた。
「エリーアスが戻るまで忙しかろうが、私の世話を頼むよ、フォルカ。それと、礼拝の間にエリーアスに食事を運んでやってくれぬかね」
「……はい」
 どうやら、余計な心配だったらしい。
 パウルの朗らかな笑みに安堵したフォルカは、再び歩を進める大導主の腕を支える手に知らずと力を込めた。

     * * *

 国境の本拠地、グレディ大教会堂へ朝の礼拝に訪れる人々の顔は多彩だ。貴族も庶民も入り交じり椅子を埋め尽くしている。
 人々の祈る姿を香炉の煙の向こうに並べて眺めつつ、パウルは祝詞を謳いあげていた。
 朝の礼拝は、グレディ大教会堂に駐在する十二名の大導主が三人ずつ持ち回りで取り仕切る。今日の大導主の中でパウルは最高齢だった。
 もともと、パウル自身がこれ以上位階が上がるとも思っていなかったところへ降ってきた異例の人事。七十を過ぎてから教会の中央へ呼ばれ、同時に大導主へ昇格するというのは普通考えられないことなのだ。そのせいで新参者が最も高齢、というおかしなことになっているが、これは何か特別な力が働いたゆえのことらしく、あまり文句を言われない。
 そして、そういう力≠使えるのは、現在の国教の祖(おや)ともいうべき王家のほかにはないのである。
 教会に比べて、ここ数年の王家は激しく揺れていた。若く有能な王妃を失い、唯一の王の実子も夭折した。王自身の政治的な力に陰りはないが、後継者をウゼロ大公家に求めねばならなくなったことは宮廷に激震を走らせたはずだ。

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