ある少女の懺悔−罪禍−(21)
どうしてこんなに劇的に症状が治まったのか、口にしない方が不自然な疑問がアヒムの背筋にねっとりと貼り付いている。キルルにはそれが分かっているだろうし、恐らくその答えも彼女は持っているのだろう。
だけど互いに口に出来なかった。二人の間にある門が、再びそっと閉じていくのを感じる。
「ユニカはどうしました? うちにはいなかったのですが……」
「村長の家に食事をとりに行ってくれてるよ」
「そう、すれ違ったのかな……。私も薬を取って来ます。びっくりして何も持たずに来てしまったので」
「無理もないね」
ロヴェリーはアヒムとキルルの間にある冷えた空気に気づいたようだった。アヒムが手放しに喜ばないのだから当然だろう。笑い方が少しだけぎこちない。
けれど、キルルが快復したことにさして疑問を感じていないらしい婦人が、アヒムの表情が強張っている理由に気づきはしないだろう。
答えを持っているであろうもう一人に、会わなければ。
アヒムは玄関を出たものの、すぐには自宅に向かわず、ここにいれば会えるであろう娘の到着を待った。
すると、さして時間をおかず、大きな包みを抱えてユニカが歩いてきた。
「おはよう、ユニカ」
荷物のせいでいつものように駆け寄ってくることが出来ないのが、もしかすると彼女にとっては幸いなのかも知れなかった。アヒムから逃げるそぶりはないが、ユニカは確かに狼狽の表情を見せた。
「おはようございます、導師さま」
「キルルの朝ごはん?」
彼女の前にかがみ込み、さりげなく行く手を遮る。見上げた先にある幼い顔はうっすらと笑みを浮かべて頷いた。
「トエラさんが野菜をやわらかく煮てくれるんです。キルル、元気になったから。お鍋ごと、スープを貰ってきたの」
「キルルが元気になって私も嬉しいよ。たくさん食べさせてあげてね。食べたら、きっともっと元気になれるから」
アヒムがそう言うと、ようやくほっと頬をほころばせるユニカ。それは後ろめたさの向こう側にある思いやりの証だった。浅はかで素直な、子供の思いやり。
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