天槍のユニカ



救療の花(11)

「降ろしてちょうだい! 自分で歩くわ!」
「無理だろう。やっとのことで立っていたくせに」
 またもユニカは言い返せなかった。ディルクの心の乱れを見破っていたつもりだったが、こちらの見栄もすっかり見破られていたらしい。
 ユニカは抵抗するのを諦め、ディルクの腕の中で大人しく縮こまった。

     * * *

 迎賓館を守る兵士が振り返ってまでこちらを見てくる。その視線を痛いほど感じた。
 職務に専念するよう叱るのは容易いが、あまりむきになってはかえって記憶に残ってしまうだろう。だからここは涼しい顔をしておくのが一番いい。ディルクはそう割り切って迎賓館の中を進んでいく。
 が、彼に抱えられているユニカはそうはいかなかった。侍官の外套を羽織り、フードを目深に被って顔を隠していても、兵士やすれ違う侍官の視線が突き刺さるようだ。
 あれからディルクはユニカを馬に乗せ、雪の積もった坂と階段が連続する道程をものすごい速さで駆け下りてきた。その馬術の素晴らしさは褒めるべきだろう。
 しかし悲鳴を堪えてディルクにしがみつくのが精一杯だったユニカは、途中で結び目の解けかけていたサンダルが片方脱げて飛んで行ってしまったことを訴え出せなかった。
 怪我が治りかけの身体を激しく揺すられたせいもあり、迎賓館へ着く頃には自力で馬から降りられないほどあちこちが痛んだ。これではディルクに抱えられて移動するほかない。
 そしてこれではあまりにも目立つ。人目に晒されることに慣れていないユニカはずっと息を詰めているしかなかった。
「ティアナ」
 迎賓館の奥まった一画、宿泊用の部屋が並ぶ辺りへさしかかったとき、二人の横を一人の侍女が駆け抜けていった。呼び止められた彼女はいらだたしげに振り返り、しかし直後にははっと息を呑んで腰を折る。
「殿下、ご無礼を致しました」
「エイルリヒが何を飲んだか、知っているか?」

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