天槍のユニカ



ある少女の懺悔−魔風−(4)

 あとは、症状を抑えるだけでなく病の毒性を打ち消せる薬が見つけられればいいのだが……。
「導師様」
 くいくいと袖を引っ張られ、アヒムは我に返った。ちょっと得意げなユニカがそれまで大事そうに抱え込んで線を描き加えていた絵を見せてくれていた。
「出来たんだね」
 ユニカは大きく頷く。
 どれどれ、確かアヒムを真似て鷹を描いていたはずだが――ユニカが差し出した紙には、小鳥が一羽、雄々しく翼を広げていた。ひばりに見えた。
「……鷹?」
 当初の予定が変わっていないことを前提に尋ねてみると、ユニカは再び大きく頷いた。
 おお、鷹らしい……きっとまだ雛なのだ。そういうことにしておこう。
 小さくて可愛らしいが、この鷹はちゃんと空へ羽ばたき滑空出来る翼の形をしている。その点をよく描けていると褒めてやれば、ユニカは返ってきた鷹の絵を大事そうに丸めてしまった。
 どうやら、タペストリーの主要な柄は決まったようだ。本番ではちゃんと鷹に見えるよう織ることが出来ればいいのだが……。村の女性達の指導力に期待だ。
 さて、絵の話はまとまったので、今度は書き取りと作文の勉強である。
 いつになく養父と並んで勉強出来るとあって、課題用の分厚い帳面を広げるユニカは嬉しそうだった。
 その帳面の傍らに、薄紅色の硝子で出来た軸のペンがそっと置かれる。アヒムは吸い寄せられるようにそれを見つめた。
 それは、クレスツェンツがユニカのためにと贈ってくれたものだった。
 ユニカは王妃の顔など知らず、ただ養父の友人としか思っていない。ところが向こうはアヒムが手紙に書いていろいろと自慢したので、ユニカのことはよく知っていた。一度王都へ連れてきて顔を見せよとうるさいのなんの。
 ふと、そのことが思い出された。
 ユニカを王都に――クレスツェンツになら、信頼して預けられるかも知れない。
「導師様、今日はどこまで写しますか?」
 参考書代わりの聖典を開き、こちらを見上げてくるユニカ。

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