天槍のユニカ



救療の花(8)

 政治は政治を担う者の手によって動かされるべきだ。むしろ王太子はやがてその政治の中心となるべく王家へ迎えられた。王家と大公家、両方の血を継ぐ者としてこれ以上の橋渡し役はいないだろうに。
 しかしディルクの返事は予想以上に情けなく、きっぱりしていた。
「私では両国を取り持てない」
「ご継父と、実の父上の仲をですよ?」
 頷くディルクをまじまじと見つめて、ユニカは眉を顰める。それはどういう冗談なのだろう。
 首を傾げたくなったすぐあとには、けれど少しだけ納得する。
 政治の権謀が絡む貴なる家柄の人々の間では、親子の絆も力関係の一部でしかないのかも知れない。例えばディルクと大公の間が親子ながらに上手くいっていないというのなら、政治的な協力を得られる可能性も低い、とか。
 しかしそれに同情するつもりはなかった。それが貴族の社会のありようなら。
「でしたら、それは殿下のご器量の問題です。弟君に毒を盛られるような事態を防げなかったのも、その後の外交をまとめ上げられないとおっしゃるのも、殿下のお力不足でしょう」
「確かに、君の言う通りだな」
 エイルリヒを止められなかったこと、大公との溝を埋めようとしてこなかったこと。
 どちらにもディルクが気がつかず、また目を背けてきたために今日のことは起こった。ユニカは知るよしもないが、彼女の言うことは当たっている。
「だが、自分の招いた事態ならなおさら、私はこれ以上状況が悪化するのを防ぐために手だてを講じなくてはいけない」
「それが私の血にすがることだとおっしゃるの? こんなに気味の悪い力を安易に頼るなんて、シヴィロ王家はやはりその程度なのですね。国王陛下だけでなくあとをお継ぎになる太子様にも期待は出来ないご様子。三百年来の王朝にも終わりが見えたというものですね」
 吐き捨てたユニカの手首を、ディルクが掴み上げる。
「そうならないためなら、私は何でもする」
 二人は至近距離で睨み合う。ディルクの瞳の中にはユニカの影が映っていた。冷静な強い意志に包み込まれている自分の姿を見て、ユニカは気圧される。

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