天槍のユニカ



ある少女の懺悔−火種−(4)

 多分、と付け加えるのは、以前そう思って意気揚々と出迎えた伝師がエリーアスではなく、人見知りなユニカは飛び上がるほどびっくりしてしまったことがあったからだ。
 それ以来、ユニカは一度アヒムを呼びに行くことにしていた。
 でも、今日はエリーアスな気がする。この間「また来月に来るからな」と言って帰って行ったし。
 とはいえ養父を呼びに行くに越したことはない。
 書斎で分厚い本を開いて書き物をしていたアヒムは手を止め、ユニカと一緒に馬の客人を迎えに出てくれた。
「なんだなんだ、二人改まって出迎えなんて」
 ユニカの予見通り、やって来たのはエリーアスだった。彼は馬からひらりと飛び降りつつ、不思議そうに首を傾げた。


 アヒムが淹れてくれたお茶と、午前にユニカとロヴェリーが焼いたビスケットを両手に持って腹ごしらえをするエリーアスは思い出したように言った。
「そういや、キルルは村にいないのか?」
「一昨日から留守だよ。何かあったかい?」
 答えたのはエリーアスが運んで来た手紙を次々に開くアヒムではなく、ユニカのカップにお茶のおかわりを注いでくれたロヴェリーだった。
「いや、単にうちに人気がなかったから……」
「行ってみたのかい」
「ち、違いますよ。別に訪ねたわけじゃなくて道なりに進んでたら見えるじゃないですか。周りはみんな窓を開けてたから、あいつのうちだけきっちり閉まってて変だなと思って……」
「ここに来てみてもいないしねえ。残念だったねエリー。……あの子はまた、マクダについて行って街で仕事をしてるよ。お金持ちの客に気に入られたみたいでね」
 ロヴェリーはエリーアスがキルルに難しい片恋をしていることなどお見通しだった。
 そんな彼をおちょくるように笑ったロヴェリーだったが、エリーアスのカップにもお茶を注ぎ直しながら声の調子を落とす。
 彼女の視線は手紙の差出人をすべて確認し終えたアヒムに向けられた。
「七日で戻ると言ってたよ。待ってるかい?」

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